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第一章 Sランク冒険者のヤンデレ幼馴染、再起のロクデナシ編

第三十四話 そうして、少年と魔王は運命を共にする【過去編5】

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 揺らぐスパーダ。

 ……いや、落ち着け。俺。

 だがスパーダは絆されかけた自身の意識に、すんでのところで自ら制止を掛ける。

 あぶねえ、少し揺らいだ……けど、揺らいだだけだ。決意が変わることは無い。
 
「し、知るかよ……」
『頼む! さっき言ったじゃろう! 儂はほとんど何も思い出せぬのじゃ!』
「だから、知らねぇって!! お前の記憶を思い出す手伝いをしろってか!? やらねぇよそんなこと!!」
『そうではない!! 儂は過去のことなど、どうでもいい!! ここにいては決して見ることのできない景色を、得ることの無い物を……経験したい!! そのために、外に世界に出たいのじゃ!!』

 気付くと、ゼノは先ほどまでの傲慢な態度は何処かへ消え去っていた。
 代わりに伝わるのは、熱意。
 だがその熱意が……ゼノの発言が本気を証明していた。
 
「っ……大体、俺がお前のパートナーになったところで何になるんだよ。ここはSランクダンジョンの下も下……脱出不可能だ!!」
『儂とパートナーになれば力が手に入る!! ここからの脱出などお茶の子さいさいじゃ!! お前だってここから脱出したいじゃろ!! 利害は一致しているはずじゃ!!』
「そ、それは……」

 出られるものなら、出たい。

 スパーダは即座にそう思う。
 先ほどまで諦めていた『帰還』という選択肢。
 ゼノの言葉を真に受けるならば、スパーダはこの『覇ノ墓標』下層から脱出できる。

 だが、

「……」

 戻ったところで、どうする?

 スパーダの頭に浮かんだのは、そんな些細な疑問だった。

 師匠から逃げて、パーティーから逃げて……挙句の果てには、死ぬ覚悟で挑もうとしたモンスターに対して足が動かなかった。
 ――――帰る意味、あるか……?

 スパーダは、挫折していた。
 今まで何度か折れかけた精神が、今回の一件で本当に折れてしまっていた。

 無理、不可能……俺にとって、最高の冒険者は空想のおとぎ話と変わらない存在だった……。
 ならもう、いいだろ……。
 夢をあきらめた俺に……生きる意味なんて……。

 諦め、断念したスパーダ。
 しかしその時、

 ――――いや、そうじゃない。

 彼の中に……一抹の感情が噴き出す。

 最高の冒険者なんてのは、もう……どうでもいい。その点に関しては一点の曇りも無い。
 だけどそんなものとは別に、俺は……生きたい。死にたくないんだ。
 死にたくないから、俺は負傷した箇所を治療する術を探した。
 ……それはつまり、生きたいってことだろ。

「っ」

 意味なんて、無くていい。

 これからは、底辺冒険者として……適当に日銭を稼いで生きて行こう。
 そのために今は、とにかく生きてここを出る――――他のことはどうでもいい。
 
 スパーダは新たに自身を定めた。
 後は、それを貫くだけである。

「……分かった」
『おぉ! 本当か!?』
「あぁ……お前の言葉の真偽も、そのパートナーってのになれば分かることだしな。なってやるよパートナー。ここから出るためにな」
『うむうむ!! やはりお前は儂の見込んだ男じゃ!! なら善は急げじゃ、剣を取れ!! この七魔剣の一つ、魔剣ゼノディーヴァをな!!』
「魔剣……」
 
 ゼノに促されるまま、スパーダは剣を握り……そして引き抜いた。

「っ!?」
『行くぞ!! 儂とお前の輪廻を繋ぐ!!』

 瞬間、スパーダとゼノ両名に衝撃が走る。
 互いの記憶が……感情が魔剣と呼ばれたソレを通して交錯し、激しく絡み合う。

「う、うぅぅぅぅぅぅ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」

 痛みではない、だが何か……何か異質なものがスパーダの身体に流れた。
 その体中を駆け抜けるその奔流……味わったことの無い感覚に彼は堪らず叫ぶ。

「何だよこれ……!! どうなってやがる……!!」
『魔剣の所有権は魔王である儂にある!! じゃから今……お前と儂の存在をリンクさせ、お前にもゼノディーヴァの所持と使用が出来るようにした!!』
「リンク……? 何だ、それ……!!」
『簡単に言えば、たった今……お前と儂は運命共同体になったということじゃ!!』
「はぁ……!? 意味分かんねぇよ……!!」

 ゼノから放たれる理解のできない発言は、未だ体中を駆ける未知の感覚と相まって彼の思考を混乱に陥れる。

 ズズ――――ズズズ

「ぁ……?」

 その時だった。
 未知の感覚とは別に、スパーダの身体に異常が発生する。
 そして一秒後……彼の中の『ナニカ』が、欠落した。

 何だ……これ……? 何が、起きてる……? 俺、だって……え……?

 異常が何なのか、スパーダは理解した。

 消え……た? 何だ……おかしい、俺の……魔力が……。

 それは魔力の消失。
 自身の魔力が彼の身体から跡形もなく消え去ったことを、理解した。

 同時に、その原因がゼノとリンクしたことによるものだと直感する。

「あぁ……ぁ……ぁ……」
『どうしたスパーダ!!』

 無くなった。俺の、俺の魔力……これじゃあもう……本当に……。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『おいスパーダ!?』
「ふぅ……!! ふぅ……!! ふぅ……!!」

 息を荒げ、上の前歯で下唇を噛み締め、ゼノディーヴァを握りしめる手に力が籠る。

「っぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」

 叫ぶスパーダ。
 それは最早、咆哮とも呼べる代物だった。

「!!」

 咆哮の最中、彼は鞘から剣を抜く。
 そしてすぐ――――意識は消失した。
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