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第一章 Sランク冒険者のヤンデレ幼馴染、再起のロクデナシ編
第十五話 逃げられない
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「はぁ……はぁ……はぁ……」
息を切らし、俺は裏路地に逃げ込む。
そして恐る恐る建物の角から顔を出し、表通りに目をやった。
「対象はまだ遠くには行っていないはずだ!! 探せ!!」
病院内の警備員たちが血眼になって俺を探している。
当然の事だろう。
今の俺は金を踏み倒した流浪者なのだから。
逃げ回る俺だが、状況は刻一刻と悪くなる一方だ。
理由は大雑把に三つある。
まず一つ、それは俺が冒険者として登録されているという事だ。
病院側も当然それを把握している。
この事がギルドの本局に知られれば、出張って来るのは病院の警備だけではない。ギルド職員や捜索の依頼を受けた冒険者たちが俺を探し回るだろう。
そして二つ、王都を脱出するには東西南北のどれかの城門を必ず通過しなければならない。
つまりその城門に警備が張られてしまえば俺は王都からの脱出が不可能になる。
袋のネズミという奴だ。
三つ、それは俺の立場の問題。
冒険者は何か違約違反や違法行為を行った場合、ペナルティが課せられる。
ペナルティの重さは犯した罪の大小に起因する。活動休止を迫られたり、酷ければ冒険者を辞めさせられることもある。
このまま支払いを踏み倒した事がギルド本局に知られれば、間違いなく俺は何かしらのペナルティを受けさせられる……。
そうなれば俺の食糧問題に大きな影響を及ぼしてしまう。
「あれ……これもう詰んでねぇか……?」
状況を整理した俺は、一番気付きたくない事に気付いた。
捕まるのも時間の問題。
そして仮に捕まらなくとも冒険者としてペナルティを課せられ食費を稼げない――――つまり飢え死ぬ。
「アカァァァァァァァァン!!!」
俺は路地裏で頭を抱え叫んだ。
「ん、おい今むこうで声がしたぞ!!」
「っ!? まずい!!」
思わず叫んでしまった事で警備の人間達に場所を察知された俺は慌ててその場を離脱した。
◇
『んぅ……ふぁぁぁぁぁ~』
「……おぉ、起きたかゼノ」
暢気に欠伸を上げながら起床したであろうゼノに、そう声を掛ける。
『むぅ……よく寝たのぅ……。久方ぶりに力を使ったから疲れたわい。全く、普段から儂を馴染ませていないからじゃぞ』
ゼノはまるで頬を膨らませているかのような口ぶりで俺に言った。
「ンな事出来る訳ないだろ。したら毎回生死の境を彷徨うじゃねぇか」
『ふん! 軟弱者が。まぁよい、決闘は勝利したのだろう?』
「あぁ」
『あの小娘の驚いた顔を思い出すだけで思わず笑いが出るわ!! 儂のモノにたかろうとするからじゃ!! して、あの小娘は?』
「俺が勝ったから解放してもらった。昨日別れたよ」
『はははははははははははは!! ざまーないのじゃ!!』
俺にしか聞こえない大声でゼノは笑う。
『目覚めから良い気分!! で、お前は何をしておる?』
コソコソと人ごみに紛れている俺に気が付いたゼノ。
「いや、実はな……」
いずれバレる事だった。
仕方ないと言った風に、俺は事に事情を説明する。
『何ィ!? なんじゃそのふざけた話は!!』
簡単にだが、要点をかいつまんだ俺の説明にゼノは怒りの声を上げた。
『というか話を聞けば儂らをその病院に入れたのはあの小娘じゃろう!? 奴に払わせればいいではないか!!』
「それが支払人の名義が俺になってたんだよ……」
『あ、あの小娘……!! どこまでいけ好かない奴じゃ!! 今度会ったら食ってやる!!』
口も無いのにそんな物騒な言葉を吐くゼノに対し、俺は言葉を続ける。
「とりあえず城門に向かう。まだギルドに俺の情報がいっていたとしてもそこまで時間は経ってないはずだ。急げばまだ王都《ここ》を出るのに間に合うかもしれない……まぁそれも賭けだけどな……」
……けど、ここを出てどうする……?
俺の事はすぐに地方中のギルドに話がいく。
金を踏み倒したなんていう情報が出回れば、ソロでのクエスト受注は厳しくなるだろう。
このままでは俺の冒険者生命は断たれてしまう。
くそっ……!!
刹那的な選択では、破滅する。
行き詰まらない選択肢は、一つしかない。
分かっていた……。
Aランクパーティーを追放され、リンゼと再会した時から……俺に残っていた選択肢は一つしかないことが。
無駄に足掻き、無駄に抵抗し――――状況を悪化させた。
そうした理由は……語りたくも無い。
酷く醜くて、何ともまぁガキっぽい理由だ。
……いいんじゃないか、もう……?
その時だった。
俺の心から、そんな声が溢れ出る。
何のための意地だ? 何の役に立つ? 糞の役にも立たないだろう。
決意が鈍る。
倦怠感が体中を闊歩する。
変な意地を張り続けるのはもういいだろ……。
幸いおあつらえ向きな選択肢が、あるじゃないか。
続けることの困難さに比べれば、止めることなど……造作も無い。
一度思考を始めたらもう手遅れだ。
俺が、俺自身の負の感情が……俺の足を掴み、引きずり込もうと試みる。
行き止まり、行き詰まり……そうだ、これしかないんだと思考が暗闇へ加速した。
これは、仕方の無い事だ。
そう思うと俺は口角を上げ、笑みを作る。
そうだよ、捨てろ……俺。
もういい、どこまでしがみつく……!! 大切なのは命だ……!!
生きるために……下らない意義は吐き捨てろ……!!
俺は頭に纏わりついていた感情を振り払う。
俺のため、ではない。
俺が背負っているこの剣とゼノのために、俺は俺を曲げた。
……それすら体《てい》の言い訳とは、自分ですら気付かなかった。
「え、え~とですね……ゼノさん」
恐る恐る、俺は口を開く。
『む? どうした急にそんな畏まって。儂とお前の仲じゃろう。敬語は要らん。むしろ距離を感じて寂しいから今すぐ止めろ』
「お、おう……ゼノ」
『何じゃ?』
「ここから脱却する方法が一つだけある……って言ったらどうする?」
『ん? どういう事じゃ?』
「逃げ回らなくても良くなるし、これからの食費にも困らなくなる、一発逆転の策って奴があるってことさ」
『何じゃと!! そんなものがあるなら先に言わんか!! 流石は儂のパートナー!!』
「パートナーじゃねぇって……」
『まぁまぁ、細かい事は良いでは無いか!! で、何じゃその策とは? さっさと言わんか!』
「あぁ……それはな……」
◇
家の扉を叩く音が聞こえる。
「ふふ~ん。やっぱり来るしかないよね♪」
家主は外に立つその姿を確認するまでもなく、それが誰なのかを把握していた。
ガチャ。
そんな音を立てて、彼女は扉を開ける。
「リンゼさん!! お願いします!! 俺をこの家に居候させてくれないでしょうか!!」
『ここまでの頑張りはなんだったのだバカ者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
そこには、土下座をして懇願するスパーダの姿があった。
息を切らし、俺は裏路地に逃げ込む。
そして恐る恐る建物の角から顔を出し、表通りに目をやった。
「対象はまだ遠くには行っていないはずだ!! 探せ!!」
病院内の警備員たちが血眼になって俺を探している。
当然の事だろう。
今の俺は金を踏み倒した流浪者なのだから。
逃げ回る俺だが、状況は刻一刻と悪くなる一方だ。
理由は大雑把に三つある。
まず一つ、それは俺が冒険者として登録されているという事だ。
病院側も当然それを把握している。
この事がギルドの本局に知られれば、出張って来るのは病院の警備だけではない。ギルド職員や捜索の依頼を受けた冒険者たちが俺を探し回るだろう。
そして二つ、王都を脱出するには東西南北のどれかの城門を必ず通過しなければならない。
つまりその城門に警備が張られてしまえば俺は王都からの脱出が不可能になる。
袋のネズミという奴だ。
三つ、それは俺の立場の問題。
冒険者は何か違約違反や違法行為を行った場合、ペナルティが課せられる。
ペナルティの重さは犯した罪の大小に起因する。活動休止を迫られたり、酷ければ冒険者を辞めさせられることもある。
このまま支払いを踏み倒した事がギルド本局に知られれば、間違いなく俺は何かしらのペナルティを受けさせられる……。
そうなれば俺の食糧問題に大きな影響を及ぼしてしまう。
「あれ……これもう詰んでねぇか……?」
状況を整理した俺は、一番気付きたくない事に気付いた。
捕まるのも時間の問題。
そして仮に捕まらなくとも冒険者としてペナルティを課せられ食費を稼げない――――つまり飢え死ぬ。
「アカァァァァァァァァン!!!」
俺は路地裏で頭を抱え叫んだ。
「ん、おい今むこうで声がしたぞ!!」
「っ!? まずい!!」
思わず叫んでしまった事で警備の人間達に場所を察知された俺は慌ててその場を離脱した。
◇
『んぅ……ふぁぁぁぁぁ~』
「……おぉ、起きたかゼノ」
暢気に欠伸を上げながら起床したであろうゼノに、そう声を掛ける。
『むぅ……よく寝たのぅ……。久方ぶりに力を使ったから疲れたわい。全く、普段から儂を馴染ませていないからじゃぞ』
ゼノはまるで頬を膨らませているかのような口ぶりで俺に言った。
「ンな事出来る訳ないだろ。したら毎回生死の境を彷徨うじゃねぇか」
『ふん! 軟弱者が。まぁよい、決闘は勝利したのだろう?』
「あぁ」
『あの小娘の驚いた顔を思い出すだけで思わず笑いが出るわ!! 儂のモノにたかろうとするからじゃ!! して、あの小娘は?』
「俺が勝ったから解放してもらった。昨日別れたよ」
『はははははははははははは!! ざまーないのじゃ!!』
俺にしか聞こえない大声でゼノは笑う。
『目覚めから良い気分!! で、お前は何をしておる?』
コソコソと人ごみに紛れている俺に気が付いたゼノ。
「いや、実はな……」
いずれバレる事だった。
仕方ないと言った風に、俺は事に事情を説明する。
『何ィ!? なんじゃそのふざけた話は!!』
簡単にだが、要点をかいつまんだ俺の説明にゼノは怒りの声を上げた。
『というか話を聞けば儂らをその病院に入れたのはあの小娘じゃろう!? 奴に払わせればいいではないか!!』
「それが支払人の名義が俺になってたんだよ……」
『あ、あの小娘……!! どこまでいけ好かない奴じゃ!! 今度会ったら食ってやる!!』
口も無いのにそんな物騒な言葉を吐くゼノに対し、俺は言葉を続ける。
「とりあえず城門に向かう。まだギルドに俺の情報がいっていたとしてもそこまで時間は経ってないはずだ。急げばまだ王都《ここ》を出るのに間に合うかもしれない……まぁそれも賭けだけどな……」
……けど、ここを出てどうする……?
俺の事はすぐに地方中のギルドに話がいく。
金を踏み倒したなんていう情報が出回れば、ソロでのクエスト受注は厳しくなるだろう。
このままでは俺の冒険者生命は断たれてしまう。
くそっ……!!
刹那的な選択では、破滅する。
行き詰まらない選択肢は、一つしかない。
分かっていた……。
Aランクパーティーを追放され、リンゼと再会した時から……俺に残っていた選択肢は一つしかないことが。
無駄に足掻き、無駄に抵抗し――――状況を悪化させた。
そうした理由は……語りたくも無い。
酷く醜くて、何ともまぁガキっぽい理由だ。
……いいんじゃないか、もう……?
その時だった。
俺の心から、そんな声が溢れ出る。
何のための意地だ? 何の役に立つ? 糞の役にも立たないだろう。
決意が鈍る。
倦怠感が体中を闊歩する。
変な意地を張り続けるのはもういいだろ……。
幸いおあつらえ向きな選択肢が、あるじゃないか。
続けることの困難さに比べれば、止めることなど……造作も無い。
一度思考を始めたらもう手遅れだ。
俺が、俺自身の負の感情が……俺の足を掴み、引きずり込もうと試みる。
行き止まり、行き詰まり……そうだ、これしかないんだと思考が暗闇へ加速した。
これは、仕方の無い事だ。
そう思うと俺は口角を上げ、笑みを作る。
そうだよ、捨てろ……俺。
もういい、どこまでしがみつく……!! 大切なのは命だ……!!
生きるために……下らない意義は吐き捨てろ……!!
俺は頭に纏わりついていた感情を振り払う。
俺のため、ではない。
俺が背負っているこの剣とゼノのために、俺は俺を曲げた。
……それすら体《てい》の言い訳とは、自分ですら気付かなかった。
「え、え~とですね……ゼノさん」
恐る恐る、俺は口を開く。
『む? どうした急にそんな畏まって。儂とお前の仲じゃろう。敬語は要らん。むしろ距離を感じて寂しいから今すぐ止めろ』
「お、おう……ゼノ」
『何じゃ?』
「ここから脱却する方法が一つだけある……って言ったらどうする?」
『ん? どういう事じゃ?』
「逃げ回らなくても良くなるし、これからの食費にも困らなくなる、一発逆転の策って奴があるってことさ」
『何じゃと!! そんなものがあるなら先に言わんか!! 流石は儂のパートナー!!』
「パートナーじゃねぇって……」
『まぁまぁ、細かい事は良いでは無いか!! で、何じゃその策とは? さっさと言わんか!』
「あぁ……それはな……」
◇
家の扉を叩く音が聞こえる。
「ふふ~ん。やっぱり来るしかないよね♪」
家主は外に立つその姿を確認するまでもなく、それが誰なのかを把握していた。
ガチャ。
そんな音を立てて、彼女は扉を開ける。
「リンゼさん!! お願いします!! 俺をこの家に居候させてくれないでしょうか!!」
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