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夜に暮らす穏やかな
うつくしい色、あなたの色、そして
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初対面のあの日から、空はちょくちょくと刹貴の庵に顔を見せに来るようになった。宣言どおり、名前を思い出させようとしているのだろう。
色々なものと接するのがいい。新しいもの、面白いもの。それらを通じて自分の存在を認められればきっと名前も思い出す、それが空の考えらしかった。
そうすれば元の身に戻ることだってできるだろう、と。
いっぱい遊びましょうね、そう言って毎度毎度、仔どもの元へ足しげく通う空を見て、まるで求婚のようだと刹貴も才津も呆れて息を吐いた。
事実その意図がなかったとしても、空は仔どもを死なせないためなら、百夜を越えても通うだろう。にこにことしていつつも有無を言わせない彼の顔は、それだけの決意を隠している。
それは実のところ、彼の博愛という人間らしさの発露というだけではなく、また同胞ゆえの庇いだてでもないのだ。
訪ねるときは手土産をというのが彼の主人の教えだということで、毎回空は何かしら食い物や着物、本や玩具を携えてやってきた。でもいくら才津の命だとしても貰ってばかりいる仔どもとしては心苦しい。最初こそ遠慮していたのだが、お嫌いでしたかと眉を下げられるとそれ以上要らないとは言いだせなかった。
刹貴も呆れこそすれ空の成すことになにも口出ししないものだから、結局空がいつも出入りしている押し入れはすぐに彼からの貢ぎ物で埋まってしまった。最近は出入りに窮屈そうにしているのをよく見かける。今日はあまり大きくないものを持ってきたようだから、前日よりは楽な登場となった。
表から入ればいいものをと仔どもなどは思うのだけれど、人間を厭う刹貴は戸口にそれらを弾く風鈴を提げているのだ。そういうわけで、才津の舗とこちらを繋ぐ唯一の道が、この押入れになっている。
「今日は髪が結いたいんですけど、湯浴みは出来ますか」
持ってきたのはかんざしだった。懐から取り出されたそれは、そちらもたいそう立派そうな絹にくるまれていた。広げられた包みの上で、飾りの珠が夜目の利かない仔どもたちのために用意された行燈の橙を受けて輝いている。
「すごい、ねえ。 きらきら、なあに、これ」
「ギヤマンですよ。長崎から、主人が買い付けてきたんです」
遠く海を渡って出島に卸《おろ》されたものだと空は言った。仔どもには途方もない距離だった。それを円い珠に作り変えてもらったらしい。
透き通って見えるのに、中には蒼が湛《たた》えられて、びっくりするほどきれいだ。
「お嬢さんの瞳と同じ色ですよ、おれの名の色」
さらりと付け足された言葉に、ぽかんと仔どもは口を開いた。
あたしのめ。
綺麗だと思ったものと自分のおぞましい部分を同列に語られて、目を丸くする。
でもそれは、聞き間違い、 ではないのだった。
「あたしの、 そら、 の」
「ええ、」
うかがった空の顔はまったく偽りなど述べておらず、得意げに笑っている。「だからおれ、この色を選んだんですよ。きれいでしょう」
「、うん」
それは自分の色もそうだと認めているようで苦しくもあったのだけれど、美しいものはうつくしいのだ。
はまっている場所さえ違うなら、こんなに美しいものなのだな。
そっと仔どもにかんざしを手渡して空は立ち上がる。
「たいせつに扱ってあげてくださいね。とても繊細だから」
うん、と仔どもは頷いた。
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