傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―

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遅すぎた日々が巡って

振り子よどうして止まないの

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 それはどこか、寂しい笑顔だ、と仔どもは思った。

「いいえ、いいえ。俺はしがない人間ですよ。あなたと何も、かわらない」「違うの」

「ええ」「嫌じゃないの」

「何がです」

 矢継ぎ早に質問を浴びせながら、仔どもはだんだんと泣きたいような気持ちになった。

「この、髪が、」

 目、が。

 垂れ下がる髪を握りしめ、顔を伏せる。

「髪、それに、瞳」

 少年は仔どもの持つ色彩を見つめ、屈託なく微笑む。

「とてもきれいだ。
 さあ、顔をあげて。おれにもっとよく見せてくださいませんか」

 人間だ、とそう彼は言った。それなのに、仔どもを忌むことなく受け入れてくれるのだ。
 ずっとずっと、排除されることしか知らなかった仔どもを。
 かけらの躊躇いすらなく。

「おれは人間ですが、産まれたときからあやかしもの、 
 あなたのいうところのバケモノ連中に囲まれて育ちましたから。外見云々うんぬんで差別したりはしません。そんなことしたら仲間なんてひとりもいなくなってしまいますよ」

 仔どもはゆっくりと、わななく呼吸を飲みこんだ。

 視界が滲んでいくのが分かった。弾かれる対象にしかならなかったものを、それは違うのだと。刹貴が言ったことと同じことを、当たり前のように彼も言うのだ。

「辛い、思いをあなたの持つ色は運んできたんでしょうね。でももう、傷つくことはないですよ。刹貴殿も、そうはおっしゃいませんでしたか」

 空は仔どもの涙を袖ですくって、蒼く揺らめくその色を見とめてほおを緩める。

 裏切らない。    信じろ。

 確かに、刹貴はそう言った。けれどそれを鵜呑うのみにして、それでも自分は平気なのかと仔どもはそれが恐ろしい。

 最後に信じるものをおれにしろ。

 決して裏切らない。

 その言葉は仔どもの願望を引きずり出し、掴んで放さない。

 いいのだろうか、このまま溺れて。告げられたときに感じた二度と手放せないだろうと予感した未来を、このまま受け入れていいのだろうか。

 おろかなことを。いいはずがない、しっかりしろ。堪えると決めたばかりじゃないか。

 だのに、ゆらゆらと少年の言葉もまた仔どもを揺らす。

 みにくい仔どもはそう生まれついてしまったから、行燈あんどんのあたたかさに惹かれるむしのように、焼けつくと分かっていてもそちらに傾かずにはいられない。

「今まで傷ついたぶん、癒すためにここへ来たんです、あなたは。刹貴殿は、あなたをとても大切したいと思っていますよ」

 いらない仔どもだったはずなのに。乱暴に扱われ、あげく捨てられて、誰からも見返られずにそのままだったはずなのに。そんな仔どもを刹貴は、大切にしてくれるというのか。

 胸が、熱い。痛いほどに。嗚咽が喉の奥から漏れる。苦しくて、仔どもは身体を抱えて丸まった。


 甘言だ、惑わされるな。

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