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The beauteous man in black and “Farewell”
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しおりを挟むラシャードとヒタキに案内されてやってきた宿舎は校舎となる建物の裏手、裏庭にひっそりと隠れるようにして建っていた。
建物は全部で三棟、渡り廊下でそれぞれが繋がっており、そのうちの一棟がモモセらの目指す場所だった。それは防砂を兼ねた森の脇に佇んでいる。その先は広大な砂漠地帯だ。
授業が終わる頃合いの今は、学年の低い子どもたちが遊んでいる姿がちらほらと見え、ラシャードらを認めると弾けるような挨拶が送られる。
そのすべてに挨拶を返してやりながら、木製の両面開きの扉をラシャードが押すと、そこには広い円形のホールとなっている。壁には等間隔に六つのアーチを持っていて、それぞれが別の場所につながっているようだった。
天窓から差し込む光は点々とむき出しになった白石作りの床に美しい模様を作っている。
「おかえり、先生。ヒタキ」
ぼうっと床に見惚れていると、優しげな声が耳をくすぐる。「ただいま、老トーヒド」
ヒタキが顔を向けた先に視線を移すと、壁を半月状にくり抜いた穴の向こうから初老の男が顔を出していた。どうやらその先は小部屋に続いているらしい。穴の隣にある六つのアーチのうちのひとつが、その小部屋につながっているらしい。「ヒタキ、今日は早いねえ。どうかしたのかい。──おや、この子は?」
老翁はヒタキに続いてきた見知らぬ顔に目を向けた。ラシャードは半身振り返り、紹介を口にする。
「今日から入寮する、モモセです。モモセ、彼はここの管理人のトーヒドだ。ここで住み込みで働いている、実質主人だな」「永いだけさねえ」
トーヒドは首を振ったが、ラシャードもまた彼の謙遜を否定した。「私だけでは到底すべてを賄いきれませんよ。特に寮の中でのことは貴方に任せてしまっているんだから。──挨拶を」
モモセはトーヒドの前に歩み出て、礼を取った。軽く腰を屈め、両手を額の前で合わせる。
「モモセです。お世話になります」
「丁寧にありがとう。わたしはトーヒドだ。ようこそ、羽ばたきの庭へ」
「羽ばたきの庭?」
「この寮の名前さ。素敵だろう?」
「はい」
モモセがはにかむと老トーヒドもまた初々しいものを見る様子で微笑んだ。
「……それにしても、先生がこうして連れてくるなんて初めてじゃないかい」
「直接頼まれたものでね。隠してもいずれ分かるだろうから、あらかじめ言っておくと、ウルドからなんだ」
「ああ、黄金の殿下」
納得したようにトーヒドは頷いた。
この国には母親の異なる三人の皇子がいる。そのうち漆黒の、と冠がつく長男に続き、次男が黄金の、──ウルドである。
「うん、そっち。ご指名を受けてしまったから、誰かに任せるわけにはいかないんですよ。
とはいえ、寮内の案内はヒタキに任せようと思いますが」
ぱあと顔を華やげて、ヒタキは喜んだ。根っから世話焼きのこの獣の仔は、自分に役目が回ってくるのを今かいまかと尻尾を振って待っていたのだ。
「お任せください。そのつもりです」
「うん、――では老トーヒド、また。この子の名前を名簿登録しておいてください」
「うん、うん、承知したよ。じゃあモモセ、困ったことがあればいつでもおいで。一の棟、二の棟にいることもあるけれど、わたしの部屋はここだから」
どうやら管理人室がそのままトーヒドの私室になっているようだった。親切に感謝を伝え、モモセは促すラシャードにヒタキとともに着いていった。
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