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プロローグ③

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恋人に刺殺され、乙女ゲームに転生した直後、獣人同士抜きあっこをしようとは。
「コスプレしての変態プレイみたいだな・・・」とげんなりしつつ、思ったよりとり乱してはいない。
前世の幼なじみにして親友、和樹と経験済みだから。
和樹とは小中高大学を共に過ごし「お互い結婚して家庭を持っても家族ぐるみでつきあいをつづけような!」と約束するほど深い絆で結ばれていた。
「そういえば、彼女に告白するとき背中を押してくれたな」「なのに俺が殺されて破局したなんて知ったら、どう思うだろう」と思いを馳せているうちに「顔色がよくなったな!」とあっけらかんとするラビオスが後始末を。

あっという間に身ぎれいにし、新しい寝間着をまとった俺を寝かせて、布団をかぶせたなら手でぽんぽん。
「これで心身きれいさっぱりしたろう、ぼくが子守唄を聞かせてやるから安らかに眠るといい」と兎の耳を揺らしながら口ずさむ歌の、なんと音痴なことか。
とはいえ、病み上がりのせいか「眠れるか!」とけちをつける気力体力はなく、耳障りな歌にこめかみを引くつかせつつ、意識を遠のかせていった、そのとき。

控えめなドアのノック音。
「なんだい?ウルフィーが眠りにつくところだよ」とにこやかに、でも、やや棘のある響きで応じると、すこし間があいて「キャスカさまがお見舞いにお越しになりました」とおそるおそる返事が。
ヒロインの名を聞いてではなく「キャスカが!?」とラビオスが跳びあがるように立ちあがったのに吃驚。
そりゃあ思い人に会えるのなら浮かれるだろうが「すこしでいいから顔を見せなよ」と恋敵の俺に勧めるのだから、なんともお人好し。

「あの事件があってからずっと彼女、気落ちしていたんだ。
ほら身支度はぼくがしてあげるから」

寝いろうとしていた俺を起こし、カーディガンを着せて櫛で髪を梳き、あらゆる角度から見て「よし!病み上がりでも男前だ!」と親指を立ててみせる。
こうもキャスカと俺を会わせたがるとは、単なるお人好しでなく、なにか思惑があってのことか。
そもそも、ためらいや迷いがないのが変。
さっきお互いの股間を触りあったばかりで、まだ匂いがのこっていそうな部屋に女性を招くのは、俺としては気が進まない。

が、「いや、でも・・・」と口を挟む暇なく「こちらの準備はできたからキャスカをお通ししなさい」と扉の向こうにいる従者に指示。
正直、眠たくてしかたなかったが、ヒロインに興味がないでもない。
なにせ、本元のゲームでは乙女のプレイヤーたちが感受移入しやすいようにだろう、イラストのキャスカの顔はのっぺらぼうだったから。
「まあ美女にはちがいないだろうが」と眠気で頭をくらくらさせながら待つことしばし。

従者が開いた扉からはいってきたのは猫の獣人のキャスカ。
艶やかな金髪に三角の耳を生やし、スカートからは縞々の尻尾を覗かせ、愛らしい見た目ながら、病人の見舞いとあり地味な色とデザインのドレスを着用。
そして、その顔は・・・。
「やあ、キャスカ、よくきたね」と両手を広げて迎えるラビオスの背中越しに彼女を凝視したまま俺は硬直。
猫を思わせる、しなやかで上品な仕草以上に目を奪われたのは、脱のっぺらぼうで、はじめてお披露目された顔面
俺の心臓を包丁で一突きにした恋人そっくりの。

口をあんぐりして「彼女も転生したというのか!?」「ていうか俺を刺したあと自害を!?」と悶々とする俺の気も知らず、そっと手をとり「助けてくれてありがとう、ウルフィー」と涙目で謝意を述べる、いかにも可憐なヒロインらしい彼女。
「わたしが油断して攫われそうになったばかりに、こんな・・・」と耳を垂れてさめざめするのに「いやいや、わるいのは強盗だよ、そこをはきちがえてはいけない」とラビオスが宥めるという、やりとりを繰りかえす。
すっかり蚊帳の外ながら、キャスカの表情や態度、ふるまいをつぶさに観察し、前世の記憶があるか否か、俺の正体に気づいているか否かを判断しようと。

言葉を切らさずフォローするラビオスに向きあいつつ、ちらちらと寄こす視線。
不審そうではなく、殺意もなさそうで、頬を染めてもじもじ、優雅に尻尾をふっているあたり、とくに他意はなさそうで、単に俺と話したいのだろう。
「それともラビオスを気にして猫を被っているのか?(猫だけに)」と疑いつつ、実際、ラビオスがいる現状で前世のことを迂闊に口にできないし、病み上がりでは詰問できそうにない。
「転生したばかりで頭が混乱しているし、焦りは禁物だな」と結論をだし、居ずまいを正して「キャスカ」と笑いかける。

「きみが無事でなによりよかったと思っている。
だから泣かないで、笑って元気なところを見せてくれよ」

我ながら鳥肌もののくさい台詞を吐いた甲斐あり「そう、そうね・・・!」と涙をこぼしつつ、笑みもこぼして満足してくれたよう。
やおら立ちあがると「まだ体が優れないのに会ってくれてありがとう。ごきげんよう」とスカートの裾を持ち、かるく頭をさげて去っていった。
左右にふられる尻尾を眺めながら見送り、扉が閉められると「いやあ!あんな気の利いた紳士的な言葉を、スマートに彼女に捧げるとはね!」とラビオスが褒めつつ、また俺を布団にしずめる。

「今回のことできみには三歩ほどリードされたかな。
悔しくはあるが、命の危険を顧みず守ろうとしたんだから文句のつけようがないよ」

気に病むキャスカを慰めて株を上げようとしたのを、俺が最後にいいところを見せつけておじゃんにしたわけだが、あまり不服に思ってなさそう。
「ゲームのとおり友情は揺るがないんだな」とほっとしたなら、眠気が染みてきて瞼をおろしていく。
意識が薄らいでいくなか、ラビオスがなにか呟いたように思うも聞こえず。
そのことを気にする間もなく、夢の中でゲームの設定やシステムについておさらいをしたもので。



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