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プロローグ①
しおりを挟む今日は彼女と交際をはじめてから、ちょうど一年。
記念としてサプライズにネックレスを贈ろうと、スキップするように会社から自宅へと。
彼女が待っているはずが、外灯がついていなく「ただいま?」とドアを開けても真っ暗。
携帯を見るも、とくに連絡はなく、心配になって電話をすれば室内から着信音。
電灯をつける暇を惜しみ、慌てて家に踏みこめば、暗い居間に彼女が座ってうな垂れていた。
「どうしたの!?」と携帯を放って顔を覗きこもうとしたら、突然の平手打ち。
まったく身がまえていなかったから床に倒れそうになったのを、とっさに手をつき「な、なに・・・」とおそるおそる問う。
とたんに彼女は顔を上げて「ふざけないでよ!」と激高。
「浮気をするなんて許せない!
交際する前、すべてを打ち明けたら受けいれてくれて誓ってくれたじゃない!」
俺はもともと一途なほうだし、彼女の事情も重々、承知している。
前の彼氏に浮気されまくり、それでも離れられず、長年、心身を蝕まれつづけた。
病的な依存から脱却できたとはいえ、心に負った深い傷から今も血が滴っているようだと。
「その状態でまた浮気されたら狂ってしまうか死んでしまう。
だから絶対に浮気しないと誓って」
交際を申しこんだときに涙目で懇願されて、胸がしめつけられた俺は「もちろん!誓うよ!」と彼女の冷たい手を両手で強くにぎった覚えがはっきりとある。
そして浮気した覚えがないのも、はっきりと。
というのに、いくら否定しても「よくも裏切って!」「この偽善者!」と聞く耳を持ってくれず責めつづける彼女。
俺もつい頭に血をのぼらせたとはいえ、ふとはっとして「そんなに断言するなら証拠があるのか?」とあらためて問う。
「あるに決まっているでしょ!」と血走った目で睨みつけた彼女が握りしめるスマホ。
すかさず、そのスマホを奪おうとしたら、読まれていたようで空ぶり。
上体を起こして「見せてくれよ!」と訴えるも「見せたって、どうにもならないのよ!」と絶叫しかえし、やおら彼女が立ちあがる。
「もう、どうにもならないことを、あたなはしでかしたの!
だから責任をとって死んで!」
「わたしもすぐに後を追うから!」と発狂した彼女の叫びが、一瞬、飲みこめず。
「死んで?」と反芻するうちにも彼女が迫って、手ににぎられている包丁にやっと気づく。
跳び退ろうとするも間にあわず、タックルされるまま包丁の切っ先が胸に食いこんでいき激痛が。
呻き交じりの悲鳴をあげて床に倒れると、馬乗りになった彼女の体重がかかり包丁が一気に埋めこまれ、心臓に達したよう。
その瞬間、激痛が遠のき、五感も鈍って、景色がスローモーションに見えたものを、包丁をぬいた彼女が自らを手にかけるまえに意識消失。
そりゃあ彼女に誤解されて恨まれて裏切り者扱いされて包丁で刺されてあの世いきなど悔しすぎる。
証拠の中身はもちろん、出所や、渡した人物、その思惑など気になること目白押し。
「これじゃあ死んでも死にきれん!」と血の涙を流さんばかりに嘆いたら、神が哀れんでくれたのか。
彼女に刺殺されて、どれくらい経ったのやら、にわかに瞼の裏に明かりが。
徐徐に思考と感覚が甦り、まだ体が気だるかったものを「まさか、一命をとりとめたのか!」と跳ね起きる。
が、見開いた目に写ったのは病室ではなく、西洋風のきらびやかな内装の部屋。
「は?」と間ぬけにあげた声は「ウルフィー!」と泣き叫ぶのに遮られた。
ふりむいて見れば、白銀の巻き毛にルビーのように赤い瞳をした青年。
男も見惚れるような美麗な容姿にして、西洋の貴族風の装束がさまになっている。
そして頭には髪と同じ色の兎のような細長い耳を生やし、先っぽを跳ねてぴくぴく。
死の淵から舞いもどったというのに、どうして目の前にコスプレ男が?
と首をひねるも、見覚えもなくないような。
しげしげと眺めて記憶をさらっているうちに、彼は赤い瞳に涙を溜めながら「記憶が混乱しているんだな」とこれまでの経緯を語る。
「きみとキャスカを含めて十人くらいで馬の遠乗りをしたんだよ。
森にはいったところで盗賊に襲われて・・・。
剣の腕が立つ従者がいたから追いはらうことができたけど、場が混乱している隙に、ならず者がキャスカを攫おうとした。
気づいたきみが引き剝がして逃げようとしたら剣が振りあげられてさ。
キャスカを抱きしめて倒れこんだとき、岩に頭を打ちつけてしまったんだよ。
それから三日、目を覚まさないものだから、そりゃあもう心配で心配で・・・」
細長いの耳を垂らし、眉尻を下げて赤い瞳を潤ませるのが兎のように愛らしい。
なんて胸をときめかせたのもつかの間、慌てて胸のあたりに手を当てる。
包帯は巻かれていなく、傷もなさそう。
恋人に心臓を一突きにされたはずが、目を覚ました今、外傷はなく、頭の後遺症だけが心配される状態らしい。
ほっとしつつ、だんだんと状況が飲みこめてきて「もし夢でないなら、えらいところに転生したな」とため息をしたもので。
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