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少年陰陽士は追憶に秘する
白河尚継 9
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道端に大学生くらいの風貌の霊がいた。
綺麗なワンピースで着飾り、髪もおしゃれにして、けれど今にも泣き出しそうだった。
四、五人の友達と遊びに行く途中の尚継は、無視して通り過ぎようとした。
小学四年。夏が終わろうという頃だった。
当時の尚継は、銭豆川を守る家業が、陰陽術の修行が、霊や妖が視える体質が、とかく嫌でたまらなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
後ろで声がした。友達が足を止める。尚継も振り返った。
中学の制服を着た女子が、尚継が無視した霊に話しかけていた。
霊は涙をぽろぽろと溢し、話をはじめた。
日向混じりの栗色で、少し癖毛なその女子中学生は、霊の涙を拭う仕草をし、相槌を打ちながら話に耳を傾けていた。
「なにしてんの、あの人」
「おれ知ってる。ねーちゃんと同じ中学で、なんだっけ、モリミヤなんたらって人。なんかユーレイが見えんだって」
「はぁ? じゃああれ、ユーレイと喋ってんの?」
「かも。ねーちゃんは明るくて優しい人とか言ってたけど。やべーよな、あれ」
年上の奇行を面白がる友達が、くすくすと嗤い合う。
胸の辺りが、きゅっと締めつけられたように苦しくなる。
身を黒く染めて狼の群れに紛れて生きなければならない羊は、こんな気分だろうか。不安と緊張がないまぜになった居心地の悪さだ。
「わ、こっち見た」
友達がはしゃぐ。こちらに気づいたモリミヤ女子が、にこりと微笑む。
霊の見えない彼らに嗤われていたことぐらい、わかったはずだ。なのにどうして、そんな穏やかな顔ができるのか。
「もう行こうぜ。はやくゲームしてーよ」
友達は興ざめしたようだった。
「ごめん。おれ、用事思い出した」
尚継は嘘をついて友達と別れた。
曲がり角に身を隠し、二人の観察をはじめた。
モリミヤ女子は、霊と打ち解けていた。
少し距離があって会話の全ては聞き取れなかったが、夜に河川敷で待ち合わせをして別れたようだった。
その晩、尚継は家を抜け出した。
モリミヤ女子は女の霊と河川敷にいた。土手に寝転がって、星空を眺めている。
しばらくして、女の霊が成仏した。
「あの霊と、なにしてたんですか」
尚継はついに耐えきれなくなり、声をかけた。
「きみはお昼の。そっか、きみも視えてたんだ」
無視したのを見られていたかもしれない。顔がじんと熱くなる。
恥入る尚継に、モリミヤ女子は隣を勧めた。躊躇いはあったが、素直に草むらに腰を下ろした。
「あの人、交通事故で亡くなって、気づいたら高校まで暮らしてたこの町にいたんだって」
「霊は、心が残る場所に引っ張られるから」
「そうなんだ。詳しいの?」
「家が、霊とか妖とか、そういうのを相手にする仕事をしてるから」
「そっか」
「星を、眺めていたんですか?」
「うん。あの人、町を出る前日に友達とこの土手でこうして星を眺めた思い出が忘れられないって話してくれて。それで今夜、一緒にここで星を見る約束をしたの」
町の明かりは遠い。確かに、ここは夜空を眺めるにはいいスポットだ。
「浮遊霊を狙って妖が襲ってくることもあります。視えるからって、あんまり関わらない方がいいです」
「そうだね。幼馴染にもよく言われる」
「霊なんて、視えない連中にはいないも同然なんだ」
「うん。でも、私は視えるから。いないふりは、できないかな」
「それで嗤われたり、変な噂されたりして、ソンじゃないか。親切にしたって、結局消えちゃうんですよ」
「損かぁ。そんなふうには考えたことなかったなぁ。だってほら、あの人に会えたから、この星空が見えた。それに、君とも知り合えたし」
月に薄く雲がかかっていた。星のまたたきが、かえって明るく見えた。
「私、森宮春香。君は?」
「白河、尚継」
「尚継君、心配して来てくれたんだよね。ありがとう」
「おれは」
どうしてここへ来たのか、上手く言葉にできなかった。
ずっと息苦しかった。
学校では自分を偽って振舞い、家では術の修行の日々。自分だけが大変な思いをしているという不公平感は、日に日に膨張していた。
春香と話している間、その息苦しさを忘れていた。
肩の力を抜いて人と本音で話せたのは、いつぶりだろう。知り会えてよかったなんて言われたのは、間違いなく初めてだ。
ありがとう、と春香は言った。言葉を返したい、と尚継は思った。
「あの」
「なに?」
春香のくりっとした目に覗きこまれ、尚継は思わず顔を伏せる。
春香の方を見られない。言葉が詰まる。
「見つけたぞ。春香、お前こんな時間に出歩いて、危ないだろう」
俯く尚継の耳に、男の声が届く。
「大吉」
「また霊か妖絡みか? そういう時は俺も呼べよ。悪さするやつらもいるんだ」
「えへへ。うん、次はそうするよ」
「ん、一人じゃなかったのか?」
「そうそう。白河尚継君。私たちと同じで、霊が視えるみたい。それで心配してついててくれたの」
「ふうん。ありがとな、尚継。俺はこいつの幼馴染で、新田大吉だ」
顔を上げた。大吉が手を差し出していた。目が合うと、尚継の身勝手な闘志に火がついた。
尚継は目の前の手を払い除けた。
◆
バスの停留所のベンチに座り、脚を伸ばした格好の春香が、靴のつま先同士をこつこつと戯れ合わせる。
「そうそう、尚継君と大吉は出会ってすぐいがみ合ってた」
「しょーがないです。水と油、犬と猿すよ」
「ふふ、犬と猿なら、尚継君が犬の方かな? でも、大吉は尚継君のこと、弟みたいに思ってるよ、たぶん」
「勘弁してください」
尚継が怖気に震えあがる身振りをすると、春香はくすりと笑った。
「そろそろ行こっか」
「ですね。どこかに出口があるはずです。それを探しましょう。春香さんは絶対無事に帰します」
蓄積した疲労を押し殺し、尚継は意気軒高に立ち上がる。
天地が鏡合わせになった異界の探索を再開した。
東京に似て非なる街。ひとっ子一人いない。路地裏に溜まった闇には、小さな妖が蠢く気配がある。
しばらく歩くと、広場に出た。
東京駅らしき、赤煉瓦の駅舎が鎮座していた。植え込みの奥にある駅舎の扉が、まるで尚継達を待ち構えていたように開いた。
壮年の着物の男が、ゆらりと現れる。
白地に黒逆波の紋が刺繍された羽織を肩にかけ、腰には大刀を佩き、後ろに黒髪の女を従えている。
「油取りめ、つまらん仕事を押し付けおって」
「牛鬼様がお手を煩わせるまでもありません。わたくしにお任せを」
黒髪の女が、男、牛鬼の前に勇み出る。
「尚継君、あの人たち、妖だよね」
「はい。牛鬼ってことは、あの女は濡女か。春香さんは逃げてください。俺が食い止めます」
「駄目だよ、葉榁町の外じゃほとんど術は使えないんでしょう。一緒に逃げよう」
春香に袖を引かれる。相手は名のある妖で、確かに闘っても勝ち目はない。春香がもう一度、尚継の名を呼ぶ。
「わかりました」
尚継は印を組む。
「『箭』」
複数の光の矢を放つと同時に、赤煉瓦の駅舎に背を向け撤退する。
濡女が髪を鞭のように遣い術を打ち払う。時間稼ぎにもならない。
「術士か。しかしまるで力が籠っておらんな。濡女」
「はい、直ちに」
濡女の髪が蛇と化し、尚継らを猛追してくる。
「春香さん先に行ってください」
逃げ切れないと判じた尚継は、反転し術の印を結ぼうとしたが遅かった。無数の蛇にたちまち絡めとられ、地面に押し付けられる。春香も、捕まった。
濡女の髪が、ぎりぎりと締めあげてくる。
「う、うう」
黒髪が春香の細首にかかる。呼吸できなくなった春香の顔がみるみる紅潮する。
「やめろっ」
叫んだ。髪を引きちぎろうと全力を振り絞る。びくともしない。
「かふっ」
口角から唾を垂らした春香の顔が、白くなった。
「あああぁぁぁっ」
地面に額を擦りつける。濡女の髪は抗えば抗うほど、より強い力で食いこんでくる。袖が破れ、腕から血が噴き出した。それでも力を振り絞り続ける。
一陣の風が、吹き抜けた。
断ち切られた濡女の黒髪が、はらはらと舞う。
大吉が、春香を片腕に抱いて立っていた。
刀をさらに一閃させ、尚継を押えつける髪も切り払う。
「遅くなった」
大吉の声。
尚継は安堵の涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
綺麗なワンピースで着飾り、髪もおしゃれにして、けれど今にも泣き出しそうだった。
四、五人の友達と遊びに行く途中の尚継は、無視して通り過ぎようとした。
小学四年。夏が終わろうという頃だった。
当時の尚継は、銭豆川を守る家業が、陰陽術の修行が、霊や妖が視える体質が、とかく嫌でたまらなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
後ろで声がした。友達が足を止める。尚継も振り返った。
中学の制服を着た女子が、尚継が無視した霊に話しかけていた。
霊は涙をぽろぽろと溢し、話をはじめた。
日向混じりの栗色で、少し癖毛なその女子中学生は、霊の涙を拭う仕草をし、相槌を打ちながら話に耳を傾けていた。
「なにしてんの、あの人」
「おれ知ってる。ねーちゃんと同じ中学で、なんだっけ、モリミヤなんたらって人。なんかユーレイが見えんだって」
「はぁ? じゃああれ、ユーレイと喋ってんの?」
「かも。ねーちゃんは明るくて優しい人とか言ってたけど。やべーよな、あれ」
年上の奇行を面白がる友達が、くすくすと嗤い合う。
胸の辺りが、きゅっと締めつけられたように苦しくなる。
身を黒く染めて狼の群れに紛れて生きなければならない羊は、こんな気分だろうか。不安と緊張がないまぜになった居心地の悪さだ。
「わ、こっち見た」
友達がはしゃぐ。こちらに気づいたモリミヤ女子が、にこりと微笑む。
霊の見えない彼らに嗤われていたことぐらい、わかったはずだ。なのにどうして、そんな穏やかな顔ができるのか。
「もう行こうぜ。はやくゲームしてーよ」
友達は興ざめしたようだった。
「ごめん。おれ、用事思い出した」
尚継は嘘をついて友達と別れた。
曲がり角に身を隠し、二人の観察をはじめた。
モリミヤ女子は、霊と打ち解けていた。
少し距離があって会話の全ては聞き取れなかったが、夜に河川敷で待ち合わせをして別れたようだった。
その晩、尚継は家を抜け出した。
モリミヤ女子は女の霊と河川敷にいた。土手に寝転がって、星空を眺めている。
しばらくして、女の霊が成仏した。
「あの霊と、なにしてたんですか」
尚継はついに耐えきれなくなり、声をかけた。
「きみはお昼の。そっか、きみも視えてたんだ」
無視したのを見られていたかもしれない。顔がじんと熱くなる。
恥入る尚継に、モリミヤ女子は隣を勧めた。躊躇いはあったが、素直に草むらに腰を下ろした。
「あの人、交通事故で亡くなって、気づいたら高校まで暮らしてたこの町にいたんだって」
「霊は、心が残る場所に引っ張られるから」
「そうなんだ。詳しいの?」
「家が、霊とか妖とか、そういうのを相手にする仕事をしてるから」
「そっか」
「星を、眺めていたんですか?」
「うん。あの人、町を出る前日に友達とこの土手でこうして星を眺めた思い出が忘れられないって話してくれて。それで今夜、一緒にここで星を見る約束をしたの」
町の明かりは遠い。確かに、ここは夜空を眺めるにはいいスポットだ。
「浮遊霊を狙って妖が襲ってくることもあります。視えるからって、あんまり関わらない方がいいです」
「そうだね。幼馴染にもよく言われる」
「霊なんて、視えない連中にはいないも同然なんだ」
「うん。でも、私は視えるから。いないふりは、できないかな」
「それで嗤われたり、変な噂されたりして、ソンじゃないか。親切にしたって、結局消えちゃうんですよ」
「損かぁ。そんなふうには考えたことなかったなぁ。だってほら、あの人に会えたから、この星空が見えた。それに、君とも知り合えたし」
月に薄く雲がかかっていた。星のまたたきが、かえって明るく見えた。
「私、森宮春香。君は?」
「白河、尚継」
「尚継君、心配して来てくれたんだよね。ありがとう」
「おれは」
どうしてここへ来たのか、上手く言葉にできなかった。
ずっと息苦しかった。
学校では自分を偽って振舞い、家では術の修行の日々。自分だけが大変な思いをしているという不公平感は、日に日に膨張していた。
春香と話している間、その息苦しさを忘れていた。
肩の力を抜いて人と本音で話せたのは、いつぶりだろう。知り会えてよかったなんて言われたのは、間違いなく初めてだ。
ありがとう、と春香は言った。言葉を返したい、と尚継は思った。
「あの」
「なに?」
春香のくりっとした目に覗きこまれ、尚継は思わず顔を伏せる。
春香の方を見られない。言葉が詰まる。
「見つけたぞ。春香、お前こんな時間に出歩いて、危ないだろう」
俯く尚継の耳に、男の声が届く。
「大吉」
「また霊か妖絡みか? そういう時は俺も呼べよ。悪さするやつらもいるんだ」
「えへへ。うん、次はそうするよ」
「ん、一人じゃなかったのか?」
「そうそう。白河尚継君。私たちと同じで、霊が視えるみたい。それで心配してついててくれたの」
「ふうん。ありがとな、尚継。俺はこいつの幼馴染で、新田大吉だ」
顔を上げた。大吉が手を差し出していた。目が合うと、尚継の身勝手な闘志に火がついた。
尚継は目の前の手を払い除けた。
◆
バスの停留所のベンチに座り、脚を伸ばした格好の春香が、靴のつま先同士をこつこつと戯れ合わせる。
「そうそう、尚継君と大吉は出会ってすぐいがみ合ってた」
「しょーがないです。水と油、犬と猿すよ」
「ふふ、犬と猿なら、尚継君が犬の方かな? でも、大吉は尚継君のこと、弟みたいに思ってるよ、たぶん」
「勘弁してください」
尚継が怖気に震えあがる身振りをすると、春香はくすりと笑った。
「そろそろ行こっか」
「ですね。どこかに出口があるはずです。それを探しましょう。春香さんは絶対無事に帰します」
蓄積した疲労を押し殺し、尚継は意気軒高に立ち上がる。
天地が鏡合わせになった異界の探索を再開した。
東京に似て非なる街。ひとっ子一人いない。路地裏に溜まった闇には、小さな妖が蠢く気配がある。
しばらく歩くと、広場に出た。
東京駅らしき、赤煉瓦の駅舎が鎮座していた。植え込みの奥にある駅舎の扉が、まるで尚継達を待ち構えていたように開いた。
壮年の着物の男が、ゆらりと現れる。
白地に黒逆波の紋が刺繍された羽織を肩にかけ、腰には大刀を佩き、後ろに黒髪の女を従えている。
「油取りめ、つまらん仕事を押し付けおって」
「牛鬼様がお手を煩わせるまでもありません。わたくしにお任せを」
黒髪の女が、男、牛鬼の前に勇み出る。
「尚継君、あの人たち、妖だよね」
「はい。牛鬼ってことは、あの女は濡女か。春香さんは逃げてください。俺が食い止めます」
「駄目だよ、葉榁町の外じゃほとんど術は使えないんでしょう。一緒に逃げよう」
春香に袖を引かれる。相手は名のある妖で、確かに闘っても勝ち目はない。春香がもう一度、尚継の名を呼ぶ。
「わかりました」
尚継は印を組む。
「『箭』」
複数の光の矢を放つと同時に、赤煉瓦の駅舎に背を向け撤退する。
濡女が髪を鞭のように遣い術を打ち払う。時間稼ぎにもならない。
「術士か。しかしまるで力が籠っておらんな。濡女」
「はい、直ちに」
濡女の髪が蛇と化し、尚継らを猛追してくる。
「春香さん先に行ってください」
逃げ切れないと判じた尚継は、反転し術の印を結ぼうとしたが遅かった。無数の蛇にたちまち絡めとられ、地面に押し付けられる。春香も、捕まった。
濡女の髪が、ぎりぎりと締めあげてくる。
「う、うう」
黒髪が春香の細首にかかる。呼吸できなくなった春香の顔がみるみる紅潮する。
「やめろっ」
叫んだ。髪を引きちぎろうと全力を振り絞る。びくともしない。
「かふっ」
口角から唾を垂らした春香の顔が、白くなった。
「あああぁぁぁっ」
地面に額を擦りつける。濡女の髪は抗えば抗うほど、より強い力で食いこんでくる。袖が破れ、腕から血が噴き出した。それでも力を振り絞り続ける。
一陣の風が、吹き抜けた。
断ち切られた濡女の黒髪が、はらはらと舞う。
大吉が、春香を片腕に抱いて立っていた。
刀をさらに一閃させ、尚継を押えつける髪も切り払う。
「遅くなった」
大吉の声。
尚継は安堵の涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
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