月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

１５.

4.

　あれは、２年生の時だったろうか。教室の窓から見える大きな入道雲。蝉の声が聞こえていたから、学校の夏期補習でのことだったと思う。


　「昨日みおくんが、歳上っぽい美人と歩いてるの見掛けた！　」

　休み時間、席座っていた玲奈の耳に、そんな声が飛び込んで来た。
　ふと顔を上げると、いつも嵐柴に付き纏っている女子達の姿が目に入って来る。

　「えー？さすが嵐柴、歳上のオネーサンと付き合ってんの？　」

　すかさず、彼女達とお近付きになりたい、近くに居た男子達が話に加わってきた。

　「うんっ、あの雰囲気は絶対にカノジョだと思う　」

　「うそぉーっ？！　みおくんってオバサン好きだったのー？！　」

　そう言ったのは、その中でもリーダー格の牧野だった。棘のある言い方をするのは、牧野が嵐柴に相手にされていないからだろう。傍目からでも、普段から軽くあしらわれているのが見て取れたからだ。

　「あー、ガッカリ！ババァ趣味なんて、聞いてないよ　」

　「でも、もしかすると理由があるのかもよ？　」

　「理由って？　」

　「パトロンとか？　あの顔だもん、学校では爽やかなフリして、実は影でホストのバイトとかやってたり？　」


　きゃあっと周りの子達が騒ぎ出す。どんな想像力よ？　下世話な話に、玲奈は自分の眉が寄ったのが分かった。

　「でもでも、お金目当てなんだったら、ウチらにもチャンスがあるんじゃない？　」

　「は？　お金なんてないよ？　」

　「ち、が、く、てー！　愛よ、愛っ！　」

　「じゃあ、アタシでも頑張れば行ける？　　」


　あまりの発想に絶句する。何故そうなるのだろう？　相手を貶めれば、自分達の所まで下りて来るとでも思っているのだろうか？

　「アンタは無理無理ー！ねぇ、マキノはどうよ？　」
　
　「えー？アタシぃ？　」

　満更でもない顔をして、牧野が長い巻き髪をかき上げた。

　「みおくんを真実の愛に目覚めさせちゃったら？　」

　「んー、まぁ、みおくんがアタシがいいって言うんなら？　」

　ぶっ。あ、しまった。吹いちゃった。

　思ったよりも響いてしまったらしく、教室が静かになった。顔を背けているが、集まる視線が刺さって痛い。

　ヤバい、どうしよう。

　「……ねぇ、あのさぁ、春川さん　」

　牧野の声がこっちに近付いてくる。

　
　「何か…… 」

　『何かな』と全部言い終える前に、牧野がドンッと玲奈の机の上に腰掛けた。