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しおりを挟むその日は日直で、教科担任から授業の前に教室へ資料と前回集めたノートを運ぶ様、指示がされていた。本来ならもう1人の日直と行う仕事だったが相手は来なかった。
教科室で教師に1人で行けるか心配された時には平気な気がしていたのに、クラスの人数分の資料とノートは、1人で運ぶには思ったよりも多くて段々腕が痛くなってきた。
しかも、前がよく見えない中、階段を登るのも不安になる。やっぱり面倒臭がらず、2回に分けて運べば良かったと後悔した時だった。
「随分と重そうだね。手伝うよ? 」
声を掛けられて、そちらを向くと彼がそこに居た。
「え、あ、大丈夫、です…… 」
「嘘、嘘! 手、震えてるじゃん 」
笑いながら有無を言わさず、資料とノートの3分の2程を取る。ふっと腕が軽くなり、視界も開けた。
「あ、ありがとう、ございます 」
「春川さん、小さいから、荷物が歩いてるのかと思ってビックリしちゃったよ 」
名前を呼ばれて、思わず見上げた嵐柴を凝視する。すると、何かを誤解した嵐柴が捲し立てる様に弁解を始めた。
「あ、小さいなんて言って、気にしてたらごめん。でも、春川さん、何かウチの弟の小さい頃に似てて可愛いなって思ってたんだ、って、女の子に弟に似てるなんて言われても嬉しくないよね。でもウチの弟、今は図体デカいけど、小さい頃は本当に可愛いくて、いつも女の子に間違われてて……、あーもう、何か言えば言う程、墓穴掘るなぁ 」
そんな事じゃない。そんな事で怒ったりしない。いつも考えている憧れの人が、自分の名前を知っていた。理由は何でもいい、自分のことを可愛いと言ってくれた。
シュンとする姿に、玲奈は思わず聞いた。
「わたしのこと、知ってるんですね? 」
「え? クラスメイトなんだし、知ってるよ 」
「でも、話したことも無かったし 」
「俺は春川さんと話してみたかったけど、もしかして嫌われてるかもと思ってたから 」
どうしてそんなふうに思われていたのか、驚いて思わず声をあげる。
「わたしっ、嫌ってなんかいないです 」
「でも、避けてたでしょ? 」
「それは…… 」
言い掛けて、一瞬言うか言うまいか悩んだ。けれど、避けていると思われても当然な行動を取ってしまっていた自覚はあったから、思い切って言うことにした。
「……嵐柴くんが、キラキラしているから 」
「は? 」
「嵐柴くんは、わたしにとって眩し過ぎるんです 」
いつもキラキラしてて、眩しくて、まともに直視出来なかった。
きっと、言われている意味が分からないのだろう。嵐柴がキョトンとしてこちらを見ている。
「それに、嵐柴くんの周りにはいつも沢山の人が居るから 」
「皆、友達だよ 」
「でも、わたしは友達じゃないから 」
「じゃあ、友達になろうよ 」
「わたしなんかが? 不釣り合いです、友達になれる理由がない 」
「友達になるのに、釣り合いだとか、理由なんかあるの? 同じ学校の同じクラスじゃない 」
それこそ訳が分からないと言うように言われて、戸惑う。
「春川さん面白いから、俺は友達になりたいなぁ。というか、同じクラスの人達は皆、友達なんだと思ってた 」
そんなことを言ったら、彼の周りに居る人達はショックを受けるだろう。自分達は嵐柴の特別だと思っているのだろうから。
「それに、春川さんが思っているより、俺のこと嫌ってるヤツって結構多いんだよね 」
「え? それって…… 」
理由を聞こうとすると、にっこりと嵐柴が笑った。あまりの眩しさに目を伏せる。
「行こうか」と促されて、頷いた玲奈は何だか誤魔化された気がした。
この日、教室に着くまでも、嵐柴と色々な話をした。
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