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しおりを挟む背後から追いかけて来る、幾多の飢えた咆哮が聞こえた気がした。
いつ捕まるか気が気ではなかった。流石の二海人も、具合の悪い幼子を抱いたまま発情期のΩを助けるのは、急げない分リスキーだった。
「大丈夫です。ここまでは来ないみたいだ 」
ドアを閉め、鍵をかけてようやく安堵する。
我を取り戻した央翔の指揮の下、久我家の優秀な警備員達は、客を屋敷の奥のプライベートエリアにまでは立ち入らせず、ラットになったαも力ずくで止め果せたのだろう。
「やるときゃやるね、君の兄さ……?! 」
「カイ……さんっ! 」
二海人の軽口は、あっさりと京香によって消される。
「カイさん、会いたかった。どうして私の前から消えてしまったんですかっ……?」
縋る様に抱き付かれて、こっちはこっちでまた面倒だなと思った。まさか、未だに自分に執着しているなどとは思ってもみなかったからだ。
加えて、咳き込みそうな位の劇しいフェロモンに海音が心配でならない。
「悪い。少し離れてくれないか 」
「嫌です! 折角お逢い出来たのに離れたくありません! 」
「きちんと説明するよ。だから1度離して…… 」
「嫌ですっ! 絶対に嫌……っ!」
イヤイヤと首を振る京香にため息が出る。迷惑がられていることを感じ取ったのか、京香の肩がビクッと震えた。
「貴方は分からないんですか? 私には分かります、分かるんです。貴方は私の運命の番なんです。そうでなければ、こんなに突然、強制的に発情させられる訳ない。今迄こんなこと、1度だって無かった。この間、発情期は終わったばかりなのに……。
原因は貴方しかない。貴方があの場にいたからです。貴方が運命だっていう証拠です! 」
「どうして俺が運命だって分かるの? あの場には俺の他にも人が大勢の人が居た。αだって、沢山居た 」
すると、京香は涙に濡れた瞳を恍惚とさせて静かに閉じる。
「貴方だって私を呼んでる。こうするとよく分かります、貴方から甘くて心を騒がせる心地の良い匂いがする…… 」
それを聞いて、自分の考えが正しいことを二海人は確信し、納得した。
この子の執着は自分に対してではない。自分を通して見ていたのは、あの頃、未だ存在さえしていなかった運命の相手。
「どうしても離れろと言うなら、今すぐ私の項を噛んで! 私を貴方の番にして下さい! 」
キッと開いた瞳にきつく見詰められる。その強い真剣な眼差しに二海人は肩を竦めた。
「そりゃあ、無理だ 」
「……っ!! どうしてっ?! 」
絶望的な表情を向ける京香を置いて、二海人は愛しい子どもに視線を落とすと柔らかく微笑んだ。
そして、京香のフェロモンに苦しそうに喘ぐ息子の前髪を優しく払う。
「こんなに小さくっちゃ、幾ら運命でもまだまだ番えねぇよなぁ 」
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