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しおりを挟む音はフェロモンにあてられた客の1人が、よろめいた体を支えるために掴んで引いたテーブルクロスのせいだった。
しゃがむ男の横に、食べ物が散乱している。
状況を理解した二海人は、チッと舌打ちをした。
「おい、久我! 直ぐに客を外に出せっ!!」
「え? あ、はいっ! 」
呆然とする央翔が、二海人の声にハッとしたのか、額に手をやりながら頭を振る。
「ぼーっとすんな!! 妹のフェロモンにあてられてんじゃねぇよっ! 全く録でもねぇな、αってヤツは! 」
ここの客は殆んどがαだ。装飾品に見立てた首輪をしているから項を噛まれることは無いだろうが、このままここにいたら大変なことになる。獰猛な獣の群れに上等な羊を放り込む様なものだ。ここぞと狙う輩もいるだろう。
二海人は海音を抱いたまま誰よりも先に動くと、京香に駆け寄りその腕を掴んで引っぱり上げた。
「立てるか? 」
ふらつきながら、二海人を見上げる潤んだ瞳が驚きに見開かれた。出来れば、会わずにいたかったが。
「カイ、さん……? どうして、ここに? 」
「ここは危ない、分かるね? 」
「やっぱり貴方が私の運命の番…… 」
うっとりとした表情に眉を顰めたくなったが、二海人は出来る限りの優しい微笑みを作る。ここで本当のことを言って反抗されてもかなわない。彼女は今、普通の状態ではないのだから。
「君の部屋へ連れて行ってくれる? 」
「え? ええ 」
赤らめる頬に何を想像したのか分かって、「大丈夫だよ、何にもしないから 」と苦笑した。
「この子がいて、変なことする訳ないでしょ? 」
どうやら二海人のことしか見えていなかった京香は海音の存在に気付くと、「あ…… 」と濡れた口元に手をやって更に顔を赤くする。
Ωの子の部屋なら、絶対に内側から鍵が取り付けられている筈だ。そこで事態が収まるのを待てばいい。
ただ、海音の様子が気になる。京香の匂いが強くなるとともに、症状が段々と酷くなってきているようだ。
ハァハァと胸で呼吸をする海音の髪に口唇を寄せる。京香のフェロモンは、βである二海人を誘ってはいない。誘っているのは……。
「凄いね、運命ってヤツは。こんなに小さくてもαなんだな 」
「え……? 」
「何でもないです。早く行きますよ 」
ボソリと呟いた二海人の声は京香には聞こえなかったようだ。
二海人は京香の腰を抱くと、抱えながら急いで階段を上った。
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