月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

文字の大きさ
上 下
137 / 152
14.

18-5

しおりを挟む



 お互いのけぶるようなフェロモンに包まれながら、あのあまい身体を何回抱いたのか。
 想像しただけで、心臓がザラザラと引っ掻かかれ血が流れる。

 パキ……と小さな音が聞こえた気がした。続くカシャンとガラスの割れる音。


 「嵐柴さんっ?! 」

 「……? 」

 瞬間、名前を呼ばれた意味が分からなかった。
 追った央翔の視線の先、割れたシャンパングラスが二海人の手を傷付けて指先から血が出ていた。床には落ちたグラスの破片が散っている。

 「あぁ、悪い…… 」

 「悪いって……、怪我してるじゃないですか 」

 央翔は目配せで使用人を呼ぶと、その場を片付けさせる。
 人の手を煩わせたことが申し訳ない。

 アイツのこととなると自制が効かなくなるのはいつものことだが、自分の嫉妬深さにはほとほと呆れる。だが、どうしようもない。
 

 「……手ぇ、洗ってくるわ 」

 ついでに頭も冷やそうと、使用人から清潔そうなタオルを受け取り、その場を後にしようとした時だった。


 「嵐柴っ!! 」

 尋常ではない山本の声がして振り返る。


 「やっと見つけたっ! ほら、パパ居たよ 」

 その腕には、ぐったりとして具合の悪そうな海音を抱いている。頭の中が真っ白になった。


 「どうした! 何があった! 」

 「って、お前っ?! 怪我してんじゃ…… 


 「そんなのどうでもいい!! 」

 その手から奪う様に海音を受け取る。 
「パ、パ…… 」と、海音がか細い声を出した。見上げる瞳は潤んでいる。


 「パパ、あちゅ、い、あちゅいよう 」

 「……熱があるな 」

  ぐずる海音の額に手を当てると確かに熱い。それにしても、先刻まではあんなに元気だったのに。
 疑問を感じ、山本の方を見ると山本は青くなっていた。


 「さ、さっきまで、沢山のケーキを前にご機嫌だったんだ。それがいきなり…… 」

 「別に山本を責めてはいないよ。それより何か変わったことは無かったか? 海音が食べていたものとか 」 

 山本が首を振る。
 その時、二海人は気付いた。どうやら、広間の方も騒がしい。

 「レモンタルトを探してたんだ。まだ、何も食べちゃいな…… 」

 ガシャーーンッ!! 突然、大きな物音がした。


 「何事だ? 」
 
 「……失礼します! 」

 言うより先、央翔が広間の方へ向かう。二海人と山本も駆け足でそれに続いた。

 原因は直ぐに分かった。



 「ーーー京香きょうこっ!」
 
 大きな階段の下で、淡いブルーのドレスを着た京香が倒れる様に座り込んでいる。
 そして、彼女の周りには噎せ返るような深く甘ったるい匂いが立ち込めていた。


 ーーー発情、か……っ?




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

処理中です...