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  まぁ、君の番、寝取って奪ったんだから恨まれてもしょうがねぇよ ーーーとうそぶく二海人に央翔が俯いた。そんな言い方をする理由に、央翔が気付かない訳がない。責任は全部自分にあると言っているのだ。真祝は何も悪く無いのだと。
 金色に近い茶色の髪が落ちて、華やかな顔立ちに陰を落とす。


 「さっきはすみませんでした。真祝さんが身籠っていると聞いて、頭に血がぼりました。どこかであれは間違いだったと、アクシデントだったのだとまだ思いたかったのかも知れない。俺とあの人は既に終わっているのに 」

 そう言うと央翔は、自分の髪と同じ色のシャンパンを一気にあおった。


 「……そもそも始まってさえもいなかった。あの人にはほんの少しでも、俺に対する想いはあったんだろうか? 」

 それを見た二海人も、自分のシャンパンを飲み干す。そして、言った。


 「あったと思うよ。アイツはあの日、君から貰った指輪を外さなかった 」

 央翔がビクリと身体を揺らす。あの日がいつを指すのかは、容易に想像がついた。
 愛する番を、永遠に失った日。あの日しか考えられない。


 「それなら尚更どうして突然あんなことになったのか、俺には今でもさっぱり分かりません。昼間に真祝さんに会っていた妹の話を聞きましたが、途中から様子が変だったらしいことは分かっても、それ以上のことは分かりませんでした。」

 チラリと視線をやっても、二海人は黙っている。
 央翔は思う。あの人が覚悟もなくプロポーズを受けることはない。嵐柴 二海人への想いを断ち切って、自分と生きていくことを選んでくれた筈だった。それを覆してまで、この男の元へと走った理由わけ
 この男は全部を知っている筈だ。なのに、央翔が知りたがっていると知りつつ、沈黙している。


 「俺なんかに教えるつもりはないってことですね。本当にどこまでも独占欲の強い人だ 」
 
 「どういう意味だ、それは 」

  皮肉を受けてハッと吐き出す二海人に、央翔が諦めに似た薄い笑みを浮かべる。
 

 「あの時言った貴方の言葉の意味、今なら分かりますよ。欲しいと思ったのなら、俺はもっとがむしゃらになるべきだった。あの人は俺にとってただ1人の『運命の番』なんだから 」

  「……そうだな。君は紛れもなくアイツにとっての、唯一の『つがい』だ 」

 二海人は、それに対しては同意した。
 断言出来る、良きにつけ悪しきにつけ央翔がもっと自分の欲望に忠実な男であったなら、真祝は今頃腕の中に居なかった。
 だが、自分でもそうなることを望んでいたのに、今は失うことを想像するだけで戦慄を覚える。
 人生に於いてもしかしては無いと分かっていても、1つでも歯車がずれていたら、真祝をこの腕にいだくことは一生無かっただろう。運命の神がいるというのなら、感謝してもし足りないくらいだ。
 

 「その面では、俺は君に感謝しているよ。君がアイツと番ってくれたお陰で、アイツはもう発情期に怯えることはない。子どものバース性に不安がることもなく、安心して子育てさせてやれる。それは、俺には絶対に与えてやれなかったことだ 」


 怪訝そうにこちらを見る央翔に、二海人は微笑みながら続ける。
 
 「心配していた拒否反応も、普段はそこまでじゃない。自分から欲しいって可愛くよがってくれるしね。発情期でも拒否反応を堪えて俺を求めてくれるんだよ。必死で俺の名前を呼びながら……さ。健気だよ、健気過ぎて泣ける 」 

 「貴方は…… 」
 
 「でもな、だからこそ、どうしても割り切れない部分もあるんだよ。こうなることが、俺にとって考えうる限りの最良の結果だと分かっていてもな 」

 「全部を手に入れておいて、何故そんなに余裕が無いんですか? 望む通り、全て貴方の手中に落ちたというのに勝手ですね 」


 勝手か……。胸の奥、どす黒いものがこごる。

 
 そんなの、てめぇが1番よく分かってんだよ。
 コイツの言う通りだ。心は狭めぇし、余裕なんてこれっきしもない。


 「笑いたくなるね。お前、知ってるか? 」

 「何をです? 」

 「恋と狂気は似ているんじゃない。同じものだ 」


 
 
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