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入り口でチェックを受けて屋敷の中に入ると、既にドレスアップをした人達が何人も集まっていた。
ざわざわとした喧騒が耳障りだ。
「パパ、ここ、おしろ? 」
二海人の手をしっかりと握りながら、海音がキラキラとした瞳で全体を見渡す。
急場で揃えたネイビーのフォーマルスーツとウィングチップのブローグシューズは、海音に誂えたように似合っていて、親の欲目かも知れないが一端の紳士を気取って見えて可愛らしい。
「……かもな 」
海音のお陰で、自覚のあった眉間の皺が取れたようだ。
一般住宅にあるまじき、広間も兼ねた大きなエントランスホール。
中央の豪華なサーキュラー階段は、頭上に輝くシャンデリアと相俟って、まるで舞台セットに見える。
まぁ、歴史のある久我家だから、こういう風に社交場としても使うためなのだろうが。
「嵐柴、ここだー 」
パーティーに一緒に招待されていた同僚の山本に名前を呼ばれた。
声のする方を見ると、手を振りながらこちらへ向かって歩いてくる。
「遅せーわ。今、来たんだろ? 」
「さっきだ、それにしてもよく気付いたな 」と言えば、「お前みたいな目立つヤツ、見付けられないほうがおかしいわ 」と逆に笑われた。
山本は海音を一瞥すると、辺りをキョロキョロと見回す。
「あれ、今日は噂の奥様は? 」
聞かれた途端、後ろに隠れていた海音が身を乗り出した。
「あのねっ、まおねっ、みおのねっ…… 」
「ほら海音、ちゃんとご挨拶しなさい」
背中をトンと押すと、海音が自分の口を両手で塞ぐ。
海音には昨夜伝えたばかりだから、嬉しくてはしゃぐのも仕方がない。二海人は海音の柔らかな髪をわしゃっと撫でた。理解したようで、海音はペコリと頭を下げる。
「あらしば みお です。3さい、です 」
「えらいね、海音くん。こんにちは、お父さんと同じ会社で働いてる、山本といいます 」
山本は中腰になって目線を同じにすると、海音のことをまじまじと見た。海音が不安そうに二海人と山本の顔を見比べる。
「あんまり見てくれるなよ、減る 」
「減るってお前……。でも本当に可愛いなぁ。しかもお前にすごく似てる。お前から毒を一切合切抜いた感じ 」
「どういう言い様だ 」
的を得た言い方に、思わず笑ってしまった。
「いや、間違いなくお前の子どもだな 」
「……当たり前だろ 」
真祝を迎えに行く時、数日間休みを取らねばならず、仕方なく山本には最低限のことを話した。だが初め、最低限過ぎたのか、この気のいい同僚は二海人が騙されているのではないかと危惧してくれたのだった。
そんなことは全く無いのだと、寧ろ自分が悪いのだと端的に説明はしたけれど。
「で、奥さんは? 」
「今、体調が悪くてね 」
『是非、ご家族と来て下さい 』
煙草をやめてから、やたらとコーヒーが飲みたくなる。
その日も自販機の前で山本と一緒に居た二海人に、そう言いながら久我 央翔は案内状を手渡してきた。
『あっ、山本さんですよね? 山本さんも是非 』
いかにも思い出したという風に案内状を渡されて、山本も面食らっていた。
意を決した様な瞳。自分となんか仕事以外で話したくなんかないだろうに、そうまでして真祝に会いたいということか。
「そうか、残念だよ。鉄壁の嵐柴を落とした麗しの美人を、やっと拝見出来ると思ってたのに」
何故かは追及せず、山本が嘆息する。そして今度は会場全体に目をやった。
「それにしても、すごいよな。娘の誕生日パーティーにこの人数。しかもよく見れば、政治家やらや芸能人やら、メディアで見知った顔が結構いらっしゃる 」
「久我家のご令嬢は年頃だしな 」
「あぁ、Ωだって噂だし、相手探しも兼ねてんだろうな。 20歳なら番探しには遅いくらいか? 」
「お前も腐ってもαだしな 」
きっと山本がこの場に呼ばれた理由はそれだ。山本も気付いているだろう。
「はぁ、出世頭のお前に言われると、本当に腐ってる気になるよ。お前見てると、バース性なんか関係無いような気がしてくる 」
「バース性の上に胡座かいてるようじゃ駄目だってことだ。αはαってだけで基礎値が高いんだから、それを活かさないってのは俺からしたら考えられないことだけどな 」
「あー、耳が痛い。お前がαだったら、1番の候補だったんだろうな 」
「馬鹿言うな、そんな訳あるか 」
「いやいや、お前、あの御曹司と知り合いなんだろ? うまくやってたら、今頃ご令嬢の隣りにいたのはお前かも知れない…… 」
「それは絶対にねぇよ 」
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