上 下
129 / 149
13.

17-13

しおりを挟む



 泣かせたくないってそんなの無理だよ。そんなこと聞いちゃったら、嬉しくて泣かないでなんていられない。


 「不安にさせてごめんな……」と顳顬こめかみに口付ける二海人の胸に、トン……と身を預ける。

 「拒否反応が出てしんどくなったら、直ぐに言うんだぞ? 」

 「言ったらめんの? 」

 鎖骨に鼻先を擦り付けたら、「こら、煽んな。ちゃんと話聞け 」と窘められた。
 心配しいな男が可笑しくて、真祝はクスッと笑ってしまう。


 「大丈夫だよ、今は発情期じゃないし。俺、出来損ないのΩだから、お前に抱き締められるの幸せだもん  」

 「それでも、だ。少しでもつらくなったら…… 」

 「あっ! 」

 そうだ、1つだけあった。
 顔を上げると、二海人が眉間に皺を寄せた。


 「どうした? 何か気になるのか? 」

 「うん 」

  真祝は難しそうな顔をしている男の首にほっそりとした白い腕を回す。
 大好きな漆黒の瞳を間近に見て、ドキドキと鼓動が早くなる。


 「ねぇ、知ってる? 今まだ朝だよ? 」

 内緒話をする様に潜めた声で言ったら、少しだけ二海人の瞳が大きくなった。けれど次の瞬間、飴色の光が差して悪戯っぽく煌めく。


 「そんなことじゃあ、めてやる理由にはならないな 」

 「……わ?! ふみ……っ! 」

 突然、膝の裏に腕を差し込まれ、フワリと身体が宙に浮いた。所謂いわゆるお姫様抱っこをされて反射的にしがみついたら、二海人が声を立てて笑った。


 「何笑ってんだよっ、もぅ……っ、んっ 」

 ちゅっと触れる口唇が、何度も何度も落ちてくる。
 それは段々に深く長くなっていき、真祝はうっとりと長い睫毛を伏せた。

 何も言わなくても、行き先はもう知っていたから……。




 ◆◆◆◆◆◆


 荒々しく開けた寝室のドア。二海人には、足で全開にしたそれを閉める余裕すらない。
 それでも、二海人は真祝をベッドに丁寧にそっと横たえてくれた。

 けれど、そこまでだった。真祝の方が、逞しい身体にのし掛かられて身体中の血が沸騰した。抱き込む強い力と、二海人に求められているという事実に眩暈がする。

 そして何故かその時、自分はΩなんだと今更ながらに実感した。



  まないキス。角度を変え、深く舌を絡めても収まらない焦燥感。

 明るい部屋で、 縺れ合いながら互いの服を脱がし合う。身体の線を辿る二海人の手がボトムに掛かるのに気付き、もどかしさに腰を浮かせた。引き下ろされるタイミングで身体を捩ると下着ごと一気に剝ぎとられる。
 既にきざしている自身を見られたくなくて二海人の足に絡めると、二海人がぐっと息を詰めたのが分かった。
 二海人からしたら、白く細い足をなまめかしく回されて普通で居られるはずがないのに真祝には気付けない。

 はだけたシャツから覗く肩の丸みに、トン……と二海人が額を当てる。

 
 「なぁ、まほ、お前発情期じゃないよな? 」

 「……? うん、まだだよ 」

 「そうだよな。だったらこんなにいい反応する訳ない 」


 そう言うと、おもむろに真祝を跨ぐ様に膝立ちになり、真祝が全ての釦を外した白いシャツをバサリと脱ぎ捨てた。

 露わになった、程良く筋肉の付いた端整な身体つきは獣の様にしなやかで目が釘付けになる。窓越しの陽光に、滑らかな肌が反射してまぶしい。
 ドキドキして目を反らし、「なんで? 」と聞くと二海人がふっと微笑んだ。


 「何でって、お前が綺麗で色っぽ過ぎるから 」

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事を心から愛していました。ありがとう。

天海みつき
BL
 穏やかな晴天のある日の事。僕は最愛の番の後宮で、ぼんやりと紅茶を手に己の生きざまを振り返っていた。ゆったり流れるその時を楽しんだ僕は、そのままカップを傾け、紅茶を喉へと流し込んだ。  ――混じり込んだ××と共に。  オメガバースの世界観です。運命の番でありながら、仮想敵国の王子同士に生まれた二人が辿る数奇な運命。勢いで書いたら真っ暗に。ピリリと主張する苦さをアクセントにどうぞ。  追記。本編完結済み。後程「彼」視点を追加投稿する……かも?

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy
BL
生活の為にαを騙してお金を稼いでいた処女ビッチの夏姫が揉め事に巻き込まれてヤクザの若頭と形だけの番になることに。 早速偽の新婚生活を始める2人だが最初は反発するものの少しずつ絆されていく夏姫。 そこに賢士の恋人が現れて?! 2人は無事に本物の番になることが出来るのか! 切なく甘いコメディ調のラブストーリー。 元気で気が強く計算高いと見せかけて天然純情Ωの夏姫(なつき)18歳 若くして組を任されている育ちのいいインテリヤクザの賢士(けんし)28歳α 金に生活にだらしない組長の1人息子。 チョロくて人のいい浩二(こうじ)β

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

グッバイ運命

星羽なま
BL
表紙イラストは【ぬか。】様に制作いただきました。 《あらすじ》 〜決意の弱さは幸か不幸か〜  社会人七年目の渚琉志(なぎさりゅうじ)には、同い年の相沢悠透(あいざわゆうと)という恋人がいる。  二人は大学で琉志が発情してしまったことをきっかけに距離を深めて行った。琉志はその出会いに"運命の人"だと感じ、二人が恋に落ちるには時間など必要なかった。  付き合って八年経つ二人は、お互いに不安なことも増えて行った。それは、お互いがオメガだったからである。  苦労することを分かっていて付き合ったはずなのに、社会に出ると現実を知っていく日々だった。  歳を重ねるにつれ、将来への心配ばかりが募る。二人はやがて、すれ違いばかりになり、関係は悪い方向へ向かっていった。  そんな中、琉志の"運命の番"が現れる。二人にとっては最悪の事態。それでも愛する気持ちは同じかと思ったが… "運命の人"と"運命の番"。  お互いが幸せになるために、二人が選択した運命は── 《登場人物》 ◯渚琉志(なぎさりゅうじ)…社会人七年目の28歳。10月16日生まれ。身長176cm。 自分がオメガであることで、他人に迷惑をかけないように生きてきた。 ◯相沢悠透(あいざわゆうと)…同じく社会人七年目の28歳。10月29日生まれ。身長178cm。 アルファだと偽って生きてきた。

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

愛して、許して、一緒に堕ちて・オメガバース【完結】

華周夏
BL
Ωの身体を持ち、αの力も持っている『奏』生まれた時から研究所が彼の世界。ある『特殊な』能力を持つ。 そんな彼は何より賢く、美しかった。 財閥の御曹司とは名ばかりで、その特異な身体のため『ドクター』の庇護のもと、実験体のように扱われていた。 ある『仕事』のために寮つきの高校に編入する奏を待ち受けるものは?

【完結】終わりとはじまりの間

ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。 プロローグ的なお話として完結しました。 一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。 別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、 桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。 この先があるのか、それとも……。 こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。

処理中です...