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しおりを挟むαと番契約を結ばない限り、Ωは発情期になると本人の意思とは関係無しに、さながら無差別攻撃が如く、否が応にもフェロモンを撒き散らして誰彼構わず惹き付けてしまう。
それは、αに項を噛まれない限り一生続く。そして1度噛まれてしまえば、Ωは呪いから解放されるとともに、新しい呪縛に囚われることとなる。
全てを捧げるΩは、αと決して対等ではない。しかし、運命の番でなくても、世界で只1人だけを誘うフェロモンはαの庇護欲を刺激する。自分だけを欲しがるΩを愛しく思い、手放せなくなる。
理屈ではない。DNAレベルの、本能に刻まれた生き物としての記憶。考え様によっては、求め合い惹かれ合う2人には幸せな『呪縛 』だ。
しかし、どんなに愛していたとしても、βにはΩを呪いから解き放ってやる力は無いし、根本的な飢えを満たしてやることはどうやったって出来ない。
一緒にいることが自然なことではないからだ。そういうふうに出来ていないからだ。そこにβの存在は無い。
「力不足で不適任。分かっていても、それでも、足掻いてたねぇ。お前の隣りにいる限りは、最高の男でなきゃいけないってさ。他の男に負ける訳にはいかない、そこら辺のαごときには負けないってね 」
「じゃあ、二海人が『理想の男 』になったのって、『α以上にαらしい男』になったのって…… 」
ずっと居ると勘違いしていた、二海人の好きな子の為だと思ってた。だけど、二海人の好きなのは僕で、……ということは。
「理想ってなんだよ 」クッと、二海人が笑う。
「まぁ、言われてるのは知ってたけど、その二つ名も失礼な話だよな。どうやったって、お前はαにはなれねぇよっていう……、どうした? 」
うわぁ、サラリと凄いこと言われた気がする。自惚れじゃないよね? 僕のため、なんだよね?
顔が蒸気するのが自分でも分かって、口許を肘で隠す。
「だって、僕…… 」
「可愛いな、その一人称 」
二海人が柔らかく瞳を細めて見詰めてくるから、頬が更に熱くなった。
「動揺すると出るんだよな。俺、お前が自分のこと『僕』って言うの、昔から可愛いくてホント好き 」
「ふ、二海、人?」
「やべぇな、俺。すごく緩くなってんな 」
伸ばしてくる手が、愛しそうに髪を撫でる。
「全く、人の気も知らないでさ。子どもの頃と変わらずずっと好きだって言ってくるし、やたらと熱っぽい目で見てくるし、色っぽく誘ってくるし。こっちは汚さずに綺麗なまんま、最上級のαに渡してやんなきゃなんないって思ってたのに 」
勝手なことを言われているのに、二海人の言葉一つ一つが、嬉しくて、幸せで、身体の末端までじんと痺れる。
真祝は二海人の節の高い大きな手を取ると、両手で自分の頬に寄せた。
「じゃあ、結婚したのに俺のことを抱かないのは抱きたくないからじゃないの? 」
「まほ?!、お前何言って…… 」
「ちゃんと答えて。こっちはずっと真剣に悩んでたんだから 」
恨めし気に見上げれば、二海人が観念した様に、はぁ……と1つ息を吐く。
「抱きたいよ、抱きたいに決まってるじゃないか。でも、1度だけ抱いたあの日、お前本当に苦しそうだったろ。
だから、まほが嫌なら、俺達には海音も居るんだし、もうそんなことしなくたっていいって…… 」
「それなのに、さっきキスをしたのは? 」
「三崎さんに幸せに出来ないなら返せって言われて焦った。まほと海音を必ず幸せにするって約束であそこから連れて来たから。お前が苦しかった時に助けてくれたあの人達には、どうにも頭が上がらない。
それにお前、キスだけは、あの時も大丈夫そうだっただろ? 今でもたまにさせてくれるし……って、どこまで言わせる気だよ、おい 」
「全部だよ、こうなったら全部吐いてもらう。俺の知らない所でそんな話があったなんて全然知らなかった 」
「怒ってるのか? 」
「怒ってるよっ。二海人は言葉が足りな過ぎる! こうやって話してくれれば、俺だって不安になんか…… 」
「不安だったのか? 」
「そうだよっ! 」
二海人が何を考えているのか分からなくて。二海人の気持ちが見えなくて。
「ごめん 」
ふわりと優しく抱き締められて、真祝は応える様に二海人の背中に手を回した。太陽の匂いが体の中に広がる。大好きな二海人の匂いだ。
「キスの話、まだ終わってないよ。ねぇ、どうしてあんなキスしたの? 」
あんな濃厚な、セックスに直結するような口付け。
「あそこまでするつもりは無かった。でも久し振りのお前との直接的接触でネジが飛んだ。
それにお前が無理するなとか言うから、自分の都合がいい意味に取ってすっげぇ期待したんだよっ!! ……馬鹿か、俺は」
そこまで言うと、二海人の抱き締める力が増した。耳許を吐息が擽る。寄せられた口唇が囁くように言った。
「お前を諦めるのは諦めた。だから、俺は今ここに居る。分かったら、お前の全部俺にくれよ。俺の未来も人生も全部お前にやるから 」
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