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しおりを挟む「いってきまーしゅ! 」
「いってらっしゃい 」
チュッキーの耳の付いた帽子を被り、チュッキーのリュックを背負った海音とみすずが出掛けるのを見えなくなるまで見届けると、ポンと肩を叩かれた。
「家、入ろうか? 」
「……うん 」
二海人のマンションの部屋に戻ることが、こんなにも気持ちを重くするだなんて今迄真祝は思いもしなかった。
エレベーターを待つ時も、乗っている時も、会話は何もない。こういう状況になって初めて、海音の存在に助けられていたことを知る。
けれど、玄関の鍵を開けて部屋に入った時だった。
「な、なぁ、コーヒーでも飲むか? みすずさんが……?!」
居たたまれなくて二海人の顔を見ずに話し掛けた真祝は、後から入って来た二海人に突然後ろから抱き締められた。
ガチャンと背後でドアの閉まる音がした。
「ちょ……っ、二海人? 」
「……キス、してもいいか? 」
低音の甘やかな声が、鼓膜に響く。
「そんなのっ、言わなくたっ……?! 」
振り向き様、向きを変えられ、そのまま口唇を重ねられる。最後まで言わせて貰えなかった言葉ごと飲み込まれ、初めから舌を探る深い口付けにクラクラと目眩がした。
トンと背中に壁が当たる。擽るみたいに喉元に触れる指先、屈みながら頭上で壁に付く肘。
追い詰めている様で、実の所、決して無理強いはせずに、真祝の逃げる余地を残している。そんな余裕のある態度が、悔しくてならない。
本当は、他の何も何も見えなくなるくらい夢中になって欲しい。見境なく、自分だけを欲しがって欲しい。
俺なんかに、そんな気持ちにはならないんだろうけど。
「離、して…… 」
まだ自分の足で立てるうちに、二海人の胸元を押し返して口付けを解く。
「嫌だったか? 」
好きな男から与えられる口付けが嫌な訳はない。ただ、自分だけ好きなことが惨めなだけだ。
真祝はふるふると首を横に振った。
「だったら…… 」
再び重ねてこようとする口唇を、真祝は手の平で制止する。
「無理しなくてもいいよ 」
二海人の動きが、ピタリと止まった。
「どういうことだ? 」
鋭くなった声音に、身体がビクッと震えた。そして、直ぐに自分が言ったことに後悔する。
「だって、二海人、無理してんじゃん…… 」
段々と小さくなる語尾。余計なことは黙っていればいいものを、思っていることを隠せない自分の性格が恨めしい。
二海人が真祝の顔を挟む様に、後ろの壁に両手を付く。
落ちる溜め息。項垂れた顔からは、表情は見えない。
「お前、人がどんな気持ちで…… 」
そんな二海人を見て、ズキッと胸の奥が軋んだ。
……やっぱり、俺と結婚したの、後悔してるんだ。
「ごめん、俺のせいで 」
友達としか思ってないのに、俺が勝手に好きになって、子どもまで作って、責任取らされて。
きっと想いまで欲しがるなんて間違ってる。分かってるんだ、でも。
「いや、まほのせいじゃない。お前にそんなことを言わせる程、俺に余裕が無いってことだろう? 」
バレてたなんて最低だよな……と、二海人が深呼吸に似た大きな溜め息を零す。
はっきりと認める言葉に、真祝は泣きたくなった。
「そんなに、好きなの? 」
「……は?! おまっ?!」
焦ったのか、いきなり二海人がゲホゲホと噎せた。
体を二つ折りにして咳き込む二海人の背中を、びっくりしながら慌てて擦る。
「大丈夫かよ? 」
「悪い…… 」
「でも、そこまで驚くこと? 」
「驚くよ。つか、んなこと聞くか? 普通…… 」
「聞くよ、大事なことだもん 」
端正な横顔がハッとしたような表情に変わって、「大事、か 」と呟いた。
「真祝 」
「な、何? 」
向き直って握られる両手。見詰める、強い眼差しにドキリとする。
けれど続けられた言葉は、真祝を絶望の淵へと落とした。
「好きだ、愛してる 」
……ホント、最低だ。
次の瞬間、真祝は思わず、二海人のことを叩いていた。
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