月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

文字の大きさ
上 下
121 / 152
13.

17-5

しおりを挟む






 「明日は海音ちゃんと2人でチュッキーランドに行きたいんだけどいいかしら? 」

 「え、2人で? 」

 真祝は夕食後のデザートに皆で食べていた、みすずのお土産のフルーツミルクレープをフォークから取り落としそうになる。


 「そうなの、さっき約束しちゃったの 」

 「ねぇー 」とみすずが言うと、「ねぇー」と海音も嬉しそうにみすずに返す。

 
 「それって、俺達も一緒に行ったら…… 」

 「駄目よ、海音ちゃんと2人でデートなんだから。折角の休日なんだし、たまには夫婦水入らずでゆっくりしなさい 」

 夫婦水入らずって、それが1番困るのに。
 結婚してから、ずっと俺達の間には海音が居た。二海人と二人っきりになってもどうすればいいのか分からない。


  「それとも、大事な海音ちゃんを丸1日、私に預けるのは心配? 」

 それは無い。みすずと三崎は、1人で子育てする自分をずっと助けてくれていた。発情期で苦しい時も、みすずが家に泊まってくれて自分と海音の面倒を見てくれた。
 打算無く接してくれたみすずには、信頼と感謝の思いしかない。
 

 「そんなことは無いですけど…… 」

 チラリと二海人の方に視線を向けると、二海人がこちらを見ていてドキッとした。慌ててみすずに視線を戻すと、みすずが苦笑している。


 「みすず、さん? 」

 「あのね、さっき嵐柴さんには話をさせて貰ったの。あなた達には、じっくりと話す時間が必要よ 」
 

   話したって、いつ? 俺が夕飯の用意をしてた時だろうか。一体何を話したのだろう? 


 「あぁ、そんな不安そうな顔をしないの。……もう、ほら 」

 そう言うと、みすずが二海人の方へ肘を向ける。すると「すみません、 お言葉に甘えます 」と、二海人がみすずに頭を下げた。


 「二海人っ! 」

 「良かったな、海音 」 

 あっさりと承諾した二海人に驚いて名前を呼ぶ。けれど二海人は真祝の声が聞こえていないかの様に、わしゃわしゃと海音の頭を撫でた。

 「うんっ! 」
 
 「帰ってきたら、まほとパパに沢山楽しかった話を聞かせてくれよ? 」
  
 「うんっ、たくさんするっ! いっぱいするっ! 」

 両手を広げて、いっぱいを表現する海音に、真祝は何も言えなくなってしまう。
 断る理由なんて、自分には何も思いつかない。


 「よろしく、お願いします 」

 言いながら、もしかしたら二海人は自分に話があるのかもと気付いた。
 ずっとわだかまっているのは、二海人がずっと好きだったという彼女のこと。
 今もその彼女のことが好きで、自分と結婚はしたけれど、やっぱり大事なものはあげられないと言われるのかも知れない。それとも、もっと決定的なことを言われるのかも知れない。

 考えれば考える程、蓄積された嫌な想像が頭の中を巡る。

 でも、離婚は嫌だ。海音だって、こんなに懐いているっていうのに。
 ……いや、そうじゃない。心の中で自分の言葉に頭《かぶり》を振る。

 俺が、嫌だ。俺が嫌なんだ。
好きと言ってくれなくたって、抱いてくれなくたって、側にさえ居られたらいい。 

 
 あぁ、もう、明日なんて来なきゃいいのに。




 ……幾らそう思っていても、朝はやって来る。
 昨夜は色々なことを考え過ぎて、睡眠不足もいいところだ。



 「それじゃあ、宜しくお願いします。みすずさん 」

 「それじゃあ、夕飯は食べて帰ってくるけど心配しないでね 」

 「海音も、みすずさんの言うこと、ちゃんと聞くんだぞ 」

 「はいっ」と元気良く返事をする海音と目線を同じ高さにして、「気を付けてな 」と、柔らかな頬にキスをすると、海音もチュッと真祝の頬にキスを返す。

 「ほら、パパにも 」

 隣りに居た二海人の方を見て促せば、背伸びをした海音を二海人がひょいと抱き上げた。 
 きゃっきゃっと喜びながら、海音が二海人の頬にキスをする。すると、二海人がちゅっちゅっと頬やおでこにお返しをするから、海音がきゃあとまたはしゃいだ。

 こんなに可愛がってるんだから、俺達のこと捨てるなんてことしないよな? 二海人。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

処理中です...