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しおりを挟むどこでどう知ったのかは分からないけれど、それだけはちゃんと否定してあげなくてはいけない。
「俺に同情してくれてんだろ? お前、優しいからな。でも、俺はちゃんと海音と2人でやっていける。心配してこんな所まで来てくれたのは嬉しいけど、お前は俺達とは何の関係も無いん…… 」
「みおの前で、そんなことを言うのはよせ 」
言葉を被せながらの静かな強い口調に、体がビクッと震えた。
「な、何だよ、突然 」
「みおは俺達の子だろ、関係ないなんて言うな 」
呆れて声が出ない。こっちが曖昧にして、逃げ道を作ってやってるってのにそんなにハッキリと言う?
真祝の中で、やり切れない怒りがフツフツと沸いてくる。
「ハイハイ、清廉潔白で優等生のお優しい二海人くんは自分の責任を感じて来て下さったということですか? ……そんなんで、俺が喜ぶとでも思ってんの? 」
「まほ…… 」
きつく睨めば、二海人が驚いた様に目を瞠った。それを見たら、余計に口を突く言葉が止まらなくなる。
「関係無いって、言ってんじゃん。お前に責任取って欲しいなんて誰が言ったよ? 俺が勝手に1人で決めて、1人で産んだんだ。幾らお前が覚悟を決めて来たんだとしても、そんなことに責任を感じる必要ない。言っちゃえば、お門違いもいいとこ……?! 」
「真祝、ちょっと、ちょっと待て 」
差し出された手の平が真祝の口を塞ぎ、制止される。二海人はもう片方の手をおでこに当てると「困るよ 」と溜め息混じりの声を出した。
「は? ばっかじゃねーの? 困るんなら最初からそんなこと言うなよ 」
「違うよ、聞けって 」
チラリとこちらに流すような視線を向けられて、心臓が跳ねた。
「お前さ、俺にどんだけ夢見てんの? 」
ふっと持ち上げられた口角が作る、艶めいた微笑みに慌てて目を反らす。
「お前には俺が、どんだけ綺麗な人間に映ってんだよ。こんなエゴの塊みたいな俺にそんなこと思ってんの、お前だけよ? 」
ツッ……と二海人の指が、そのまま真祝の頬を伝って顎に触れた。
「そうだな、《清廉潔白》で《優等生》の二海人くんなんかいないってこと、そろそろ真祝くんにも分かって貰わなきゃな 」
「ばっ……!! 」
真祝は慌ててその手を払いのけると、立ち上がった。キョトンと見上げながらこっちを見る二海人が「あ、《お優しい》ってのもあったか 」と楽しそうに笑う。
トスッ……と、心臓に何かが刺さる音がした。
「こン……のっ、天然タラシがっ! お前がそんなんだから、勘違いしそうになんだよ! 」
「勘違いするようなこと、俺言ったか? 」
「とぼけるな! あの、あの…… 」
自分から口に出そうとすると、恥ずかしくなる。かぁっと、体温が上昇していくのが分かった。
「何だよ? 」
「手に入れるとか、我慢しないとか…… 」
俺のことだと思っちゃうじゃんか……。
ゴニョゴニョと言い淀みながら言うと、二海人が『あぁ……』という顔をした。
「それね……。みお、おいで 」
二海人は、素直に手を伸ばす海音を抱き上げると膝の上に乗せた。「可愛いなぁ 」と、柔らかい髪に口唇を寄せる。
「なぁ、みおの『み』は『海』って字なんだろ? 『お』は何? 」
「……っ?! 誰がそんなことっ 」
突如、思ってもいなかったことを聞かれて、真祝はギョッとした。話を逸らされたことなど気付きもせずに、聞かれたことにいっぱいいっぱいになってしまう。
海音の名前の由来なんて、誰にも言っていない。ただ、1人にしか……。
「み、お? 」
悪いことをしてしまったと思ったのか、海音がぎゅっと小さな手で二海人のシャツの胸元を掴む。
「誰だっていいよ。隠そうとしたって、もう分かってる。『海 』は、父親から貰った字なんだろう? 響きも同じだ、俺以外の誰が居るんだよ 」
当たり前の様に、事も無げに言われて、グッと言葉が詰まった。そんな、簡単に言って欲しくなんかない。俺がどんな覚悟でお前を諦めたのか、どんな気持ちで海音を孕んで、産んだのか。
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