月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 『みお 』……、『みお 』、か。響きが、胸の奥に染み込んでいく。


 「『みお』くん……、いい名前だね 」

 そう言うと、みおは得意そうな顔をする。


 「おとおさんと、おなじなの 」

 「お父さん? 」

 コクコクとみおが頷く。


 「おとおさんにもらったの。『うみ 』って、じなの 」

 心臓がどくんと鳴った。

 
 そうか。『みお』の『み』は、『海』という字なんだな。
 そして、思う。真祝、お前はどういう気持ちでこの子の名前を付けたんだよ? 
 

 「お父さんは、何処にいるの? 」

 真祝がみおに自分のことをどう話しているのか知りたくて、そう聞くと、みおは可愛いらしい顔を曇らせる。


 「みおのおとさんね、おつきさま、いるの。だから、あえないの 」  

 「月? 」 

 「うん。だって、おつきさま、うんととおいでしょ? ねぇ、おにいちゃ、まおのおともだち? 」

 ずっと、聞きたかったのか、みおが体をこちらに向けて聞いてきた。


 「友達とはちょっと違うかな 」

 「ちがうの? どこから、きたの? 」

 二海人はふっと微笑むと、そっとその柔らかな頬に触れた。


 「お月様だよ 」
 
 そう言った瞬間、みおの顔がぱぁっと輝く。


 「おつきさま! おとさんっ? 」

 「そう、みおとまほを迎えに来たんだ 」

 「みおのおとさんだっ!! 」

 躊躇いなく胸に飛び込んで来た我が子が、限り無く愛おしい。
 きっとこの子も、自分が分かった様に、直ぐに理解したのだ。抱き締めながら、細く柔らかい髪に顔を埋める。その時だった。

 ドサリと落ちる荷物の音。


 「みおから、離れろ……っ! 」

 次いで聞こえた声に、鼓膜があまく震えた。
 振り向けば、恐い顔をしながら、一直線にこちらへ向かってくる真祝の姿が目に映る。二海人は、みおを抱いたまま立ち上がった。


 「……みおを、返せ 」

 「……。」

 正面に立ち、自分を見上げる真祝から目が離せない。
 睨み付けられているのに、瞬きも出来ない程、可愛いくて堪らないなんてどうかしている。


 「まほは、抱き付いて喜んでくれないの? 」
 
 軽口に、ギリッと睨む瞳の光が強くなる。二海人は、ふぅっと溜め息をいた。


 まぁね、自分のして来たことを考えれば、一筋縄じゃいかないこと位、分かってはいたけどね。


 「そんなに恐い顔するなって。みおも恐がってるだろ、ほら……? え? 」

 真祝に渡そうとすれば、イヤイヤをしながらみおが二海人にしがみついてくる。
 二海人は宥めるようにみおの頭を撫でると、そっとその小さな耳許に内緒話をするみたいに囁いた。
 聞いたみおがビックリした顔をして二海人の顔を見る。


 「ほん、と? 」

 「本当だよ。これからはずっと一緒だ。だから今は、まほん所に行きな 」

 頷いたのを確かめて、二海人が大人しくなったみおを真祝に差し出せば、引ったくる様に奪われた。手から暖かい重みが消えて、寂しくなる。
 

 「何しに来た 」
 
 二海人は後ろ手でテーブルに両手を付くと、真祝にニッコリと笑い掛けた。

 「最愛のまほちゃんと、俺の子供に会いに 」


 ギョッとした表情の後、真祝が叫ぶ。

 「お前の子じゃないっ! 」

 「そうなの? 」

 ピクッと自分の顳顬こめかみが動いたのが分かった。


 「そうだ! 」
 
 見ると、真祝に抱かれているみおが不安そうな顔をしている。
 それはそうだろう、突然現れた、父親だと名乗る男とそれを否定する母親。誰だって不安になる。幼い子供なら、尚更にだ。
 二海人は先程よりも、大きな溜め息を吐き出した。
 

 「な、何だよ 」


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