109 / 152
12.
16-2
しおりを挟む『みお 』……、『みお 』、か。響きが、胸の奥に染み込んでいく。
「『みお』くん……、いい名前だね 」
そう言うと、みおは得意そうな顔をする。
「おとおさんと、おなじなの 」
「お父さん? 」
コクコクとみおが頷く。
「おとおさんにもらったの。『うみ 』って、じなの 」
心臓がどくんと鳴った。
そうか。『みお』の『み』は、『海』という字なんだな。
そして、思う。真祝、お前はどういう気持ちでこの子の名前を付けたんだよ?
「お父さんは、何処にいるの? 」
真祝がみおに自分のことをどう話しているのか知りたくて、そう聞くと、みおは可愛いらしい顔を曇らせる。
「みおのおとさんね、おつきさま、いるの。だから、あえないの 」
「月? 」
「うん。だって、おつきさま、うんととおいでしょ? ねぇ、おにいちゃ、まおのおともだち? 」
ずっと、聞きたかったのか、みおが体をこちらに向けて聞いてきた。
「友達とはちょっと違うかな 」
「ちがうの? どこから、きたの? 」
二海人はふっと微笑むと、そっとその柔らかな頬に触れた。
「お月様だよ 」
そう言った瞬間、みおの顔がぱぁっと輝く。
「おつきさま! おとさんっ? 」
「そう、みおとまほを迎えに来たんだ 」
「みおのおとさんだっ!! 」
躊躇いなく胸に飛び込んで来た我が子が、限り無く愛おしい。
きっとこの子も、自分が分かった様に、直ぐに理解したのだ。抱き締めながら、細く柔らかい髪に顔を埋める。その時だった。
ドサリと落ちる荷物の音。
「みおから、離れろ……っ! 」
次いで聞こえた声に、鼓膜があまく震えた。
振り向けば、恐い顔をしながら、一直線にこちらへ向かってくる真祝の姿が目に映る。二海人は、みおを抱いたまま立ち上がった。
「……みおを、返せ 」
「……。」
正面に立ち、自分を見上げる真祝から目が離せない。
睨み付けられているのに、瞬きも出来ない程、可愛いくて堪らないなんてどうかしている。
「まほは、抱き付いて喜んでくれないの? 」
軽口に、ギリッと睨む瞳の光が強くなる。二海人は、ふぅっと溜め息を吐いた。
まぁね、自分のして来たことを考えれば、一筋縄じゃいかないこと位、分かってはいたけどね。
「そんなに恐い顔するなって。みおも恐がってるだろ、ほら……? え? 」
真祝に渡そうとすれば、イヤイヤをしながらみおが二海人にしがみついてくる。
二海人は宥めるようにみおの頭を撫でると、そっとその小さな耳許に内緒話をするみたいに囁いた。
聞いたみおがビックリした顔をして二海人の顔を見る。
「ほん、と? 」
「本当だよ。これからはずっと一緒だ。だから今は、まほん所に行きな 」
頷いたのを確かめて、二海人が大人しくなったみおを真祝に差し出せば、引ったくる様に奪われた。手から暖かい重みが消えて、寂しくなる。
「何しに来た 」
二海人は後ろ手でテーブルに両手を付くと、真祝にニッコリと笑い掛けた。
「最愛のまほちゃんと、俺の子供に会いに 」
ギョッとした表情の後、真祝が叫ぶ。
「お前の子じゃないっ! 」
「そうなの? 」
ピクッと自分の顳顬が動いたのが分かった。
「そうだ! 」
見ると、真祝に抱かれているみおが不安そうな顔をしている。
それはそうだろう、突然現れた、父親だと名乗る男とそれを否定する母親。誰だって不安になる。幼い子供なら、尚更にだ。
二海人は先程よりも、大きな溜め息を吐き出した。
「な、何だよ 」
43
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる