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「お待たせしました。アイスティーとレモネードです 」
オープンカフェのテラス席。幾ら大きなオーニングがあっても、今日は日差しが強くて暑い。きっと、冷たいドリンクはとても美味しく飲んでもらえるだろう。
コースターを置いて、どうぞ……とそれぞれの前に置くと何故だか、きゃあと騒がれた。
何かあったかと驚いて、それぞれに微笑めば、客の女の子が頬を染める。傾げた小首にどんな威力があるのか、真祝は知っていた。
「すみません、俺、何かしましたか? 」
「いえ!何もっ! 」
「そうですか。じゃあまた、何かあったらお声を掛けて下さい。ご注文は以上ですね? 」
そう言って、注文伝票をテーブルに置き、キッチンの方へ戻ろうとした時だった。「あ、あの……っ! 」と、引き止められる。
「はい? 」
振り向けば、女の子の顔は既に林檎の様に真っ赤だ。
「何か? 」
「あ、あの、連絡先を教えて貰えませんかっ? 」
随分ストレートだなと、可笑しくなる。近くの大学の学生だろうか。可愛いなと思いつつも、真祝は「ごめんなさい 」と頭を下げた。
「駄目、ですか? 」
「はい。俺、男居るんです 」
「えっ?! 」
真祝の発言に、耳をそばだてていたらしい、他のテーブルからも声がした。ビックリしている女の子達に、真祝はふふっと笑って言う。
「俺の男、嫉妬深いんです。こんな可愛い子達に声掛けられたって知られたら怒られちゃうから 」
「内緒ね 」と、口に人差し指を立てて片目を瞑る。卒倒しそうな女の子達を置いて、真祝は黒いカフェエプロンを翻しながらキッチンへと戻った。
「……見、て、た、ぞー 」
カウンターの向こうから、じとっと見ているのは、ここ『ブルー サンセット カフェ 』の店長である、三崎だ。
「彼女達、本気にするぞ 」
「俺、嘘言ってませんもん 」
にこっと微笑みながらそう言うと、「それだよ、それ! 皆、それに騙されんだよなー 」と、三崎が言った。
「お前、わざと他の客にも聞こえるように言ったろ? 」
「人聞きの悪い。……それより店長、今日すごく日射しが強いですよ。タープ下ろした方がいいんじゃないですか? 」
「んー、そうだなぁ 」
奥からのっそりと外を覗き込むようにして、三崎が外の様子を伺う。
「俺、やっときますよ 」
言いながら外へ向かおうとすれば、「あっ、また誤魔化そうとする」と聞き捨てならないことを言われた。
「何も誤魔化そうとなんて、してませんて 」
「まほちゃん、うちの客増やす程モテんのにさぁ……」
「売上に貢献してるなら、いいじゃないですか 」
「それは感謝してる。ありがとう、って違う! もうそろそろ、ぶった切るばかりじゃなくて、周りを見てもいいんじゃないかと 」
またそれか。出逢いが出逢いだっただけに、店長はオーナーで奥さんのみすずさんと一緒に要らぬ心配をしてくれる。
「まほちゃん、女の子もいいぞー。可愛いし、柔らかいし。男で失敗したなら、次は女の子にしてみればいいのに」
「うわっ、出た! セクハラ、ヒンシュク発言! 世の女の子達に謝って下さい。それに、考えたら分かるでしょ? 女の子なんて余計に駄目です。アラサー、子持ちの捨てられΩなんて、誰も相手にしませんよ 」
「そうかなぁ、それを持って余りあると思うんだけどなぁ 」
「何の欲目なんですか、それは。それから俺、何度も言ってるじゃないですか。愛だの恋だのってのは、もうウンザリなんですよ 」
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