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しおりを挟むそんな時だった。あの日は、赴任地に赴くにあたって事前の計画書とデータの提出を求められ、休日だというのに、家でPCと膨大な資料とを睨んでいた。
初めは宅急便か何かと思った。カタンと玄関から小さな音が聞こえ、ドアの外に気配を感じて覗いたインターフォン越しに、もう一生会えないだろうと思っていた真祝を見た時、遂に幻を見るようになったのかと思った。そして次の瞬間には、弾かれたみたいに体が動いて玄関のドアを開けていた。
信じられなかった。ただでさえ細かった線が更に細くなってはいるが、本物の真祝が確かにそこに立っていた……。
逸る気持ちで、央翔の言葉を待つ。
「夏でした。丁度、8月に入ったばかりの頃だと思います 」
央翔の言葉に、二海人は自分でも瞳孔が開いたのが分かる。
アイツは諦めるために抱けと言った。それを自分は言葉通りに受け止めたが、アイツは想いを抱えて生きていくためにそう言ったのだと、今、気付いた。
ははっ、と二海人は笑った。
何だ、それは。どんな茶番だ? アイツのためにしてきたことが、悉く裏目に出ている。しかもその原因は、全て真祝の自分への恋慕からだ。
黙って、大人しく運命のαと共に幸せになっておけば良いものを、とんだ跳ねっ返りめ。
けれど、それを喜んでしまっている自分がいては、もう笑うしかない。
「はっ、ははっ……、はははっ」
アイツの馬鹿さ加減に涙がでる。そして、自分の馬鹿さにも……。
二海人は上を向きながら、目頭を押さえた。
……真祝、お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ。
「あぁ、そうかよ。分かったよ 」
幸せに出来る、出来ないなんて、もう知るか。αだの、βだの、運命だの、くそくらえだ。そんなに俺がいいってんなら、腹括ってやる!
「え? 」
「俺のだ 」
「嵐柴さん? 」
さっきから意味の分からないことを言ったり、突然笑ったり、久我は自分の気が変になったと思っているかもしれないなと思ったら、ふっと口許が緩んだ。
二海人は、ぐっと襟元に指を入れると、締め付けていたネクタイを緩ませる。
「もう、俺のにするって決めた。あんなに可愛いの、もう絶対に誰にも渡さねぇ 」
前髪をかき上げながら、挑戦的に光彩を煌めかせて二海人は央翔に言った。
「アイツの居場所、教えろよ 」
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