月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

文字の大きさ
上 下
104 / 152
11.

15-6

しおりを挟む



 そんな時だった。あの日は、赴任地に赴くにあたって事前の計画書とデータの提出を求められ、休日だというのに、家でPCと膨大な資料とを睨んでいた。
 初めは宅急便か何かと思った。カタンと玄関から小さな音が聞こえ、ドアの外に気配を感じて覗いたインターフォン越しに、もう一生会えないだろうと思っていた真祝を見た時、遂に幻を見るようになったのかと思った。そして次の瞬間には、弾かれたみたいに体が動いて玄関のドアを開けていた。
 
 信じられなかった。ただでさえ細かった線が更に細くなってはいるが、本物の真祝が確かにそこに立っていた……。




 逸る気持ちで、央翔の言葉を待つ。

 「夏でした。丁度、8月に入ったばかりの頃だと思います 」

 央翔の言葉に、二海人は自分でも瞳孔が開いたのが分かる。
 アイツは諦めるために抱けと言った。それを自分は言葉通りに受け止めたが、アイツは想いを抱えて生きていくためにそう言ったのだと、今、気付いた。



 ははっ、と二海人は笑った。

 何だ、それは。どんな茶番だ? アイツのためにしてきたことが、ことごとく裏目に出ている。しかもその原因は、全て真祝の自分への恋慕からだ。
 黙って、大人しく運命のαと共に幸せになっておけば良いものを、とんだ跳ねっ返りめ。

 けれど、それを喜んでしまっている自分がいては、もう笑うしかない。


 「はっ、ははっ……、はははっ」

 アイツの馬鹿さ加減に涙がでる。そして、自分の馬鹿さにも……。

  二海人は上を向きながら、目頭を押さえた。


 ……真祝、お前、どんだけ俺のこと好きなんだよ。
 

 「あぁ、そうかよ。分かったよ 」

 幸せに出来る、出来ないなんて、もう知るか。αだの、βだの、運命だの、くそくらえだ。そんなに俺がいいってんなら、腹括ってやる!
 

 「え? 」

 「俺のだ 」

 「嵐柴さん? 」

 さっきから意味の分からないことを言ったり、突然笑ったり、久我は自分の気が変になったと思っているかもしれないなと思ったら、ふっと口許が緩んだ。

 二海人は、ぐっと襟元に指を入れると、締め付けていたネクタイを緩ませる。


 「もう、俺のにするって決めた。あんなに可愛いの、もう絶対に誰にも渡さねぇ 」

 前髪をかき上げながら、挑戦的に光彩を煌めかせて二海人は央翔に言った。


 「アイツの居場所、教えろよ 」




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

待っていたのは恋する季節

冴月希衣@商業BL販売中
BL
恋の芽吹きのきっかけは失恋?【癒し系なごみキャラ×強気モテメン】 「別れてほしいの」 「あー、はいはい。了解! 別れよう。じゃあな」  日高雪白。大手クレジットカード会社の営業企画部所属。二十二歳。  相手から告白されて付き合い始めたのに別れ話を切り出してくるのは必ず女性側から。彼なりに大事にしているつもりでも必ずその結末を迎える理不尽ルートだが、相手が罪悪感を抱かないよう、わざと冷たく返事をしている。  そんな雪白が傷心を愚痴る相手はたった一人。親友、小日向蒼海。  癒し系なごみキャラに強気モテメンが弱みを見せる時、親友同士の関係に思いがけない変化が……。 表紙は香月ららさん(@lala_kotubu) ◆本文、画像の無断転載禁止◆ Reproducing all or any part of the contents is prohibited without the author's permission.

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

処理中です...