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「やっと、会えました 」
背中で聞き慣れた男の声を聞いて、玄関の鍵を開けっ放しにしていたことに気付き、自分の迂闊さに真祝は舌打ちをした。平日の昼間だったから、油断していたのだ。
二海人と身体を繋いだあの日から、1ヶ月が経っていた。
「……ストーカーかよ、怖ぇな 」
「引っ越して、何処へ行く気ですか? 」
ガランと片付けられた部屋、隅に積まれた段ボールを見れば一目瞭然のことだったから作業する手を休めずに黙っていた。
「俺の所で無いのは、確かですね。1ヶ月も何処に居たんですか? 」
「お前に関係ねぇだろ 」
玄関横の壁にトン……と寄り掛かった央翔が、ため息を吐く。
「関係ないなんてご挨拶ですね。俺は貴方の番であり、婚約者ですよ? 」
「指輪は送り返した 」
「……そんなんで、納得する訳ないじゃないですか 」
低い、怒りを秘めた声。
「突然行方が分からなくなって、会社も辞めて……。何があったんですか! あの日だって、俺はずっと待ってた! 」
「行けねぇって、メールしたろ 」
「そのメールの後っ、1ヶ月も連絡が取れなくなるってどういうことですかっ! 」
「……静かにしろ 」
声を荒げる央翔に、今度は真祝がため息を吐く。
「騒ぐな、近所迷惑だ。お前んトコの豪邸とは違うんだよ 」
ぐっ……と息を詰めた央翔が、声のトーンを落とす。
「でも、それまで、あんなこと無かったじゃないですか 」
自分でも理不尽なことを言っているとは分かっていた。
央翔が自分を詰《なじ》りたいのは当然のことだと思う。それだけのことをしている自覚があるから、央翔の顔を見ることが出来ないのだ。
「何かあったと分かって、直ぐにこのアパートに来たけれど貴方はいないし。
貴方の性格上、予め約束を断ることはあったって、人を待たせた状態で断ることなんかないから余計…… 」
「何、人のこと分析してんだよ 」
央翔が、あの時思った通りの行動を取ったと知り、やはりこの部屋には戻らなくて正解だったなと思いながら、同じ事をしている自分達に可笑しくなる。
そうだ、一緒に居た1年という期間は、決して短いものではない。
「ちゃんと聞いてください。 俺は、心配したんです。京香が、真祝さんと会った時に様子がおかしかったと言うから、本当に心配してた。ずっと、探してたんですよ 」
「頼んでない 」
「真祝さん…… 」
業を煮やしたのか、部屋に上がり、側に寄って来たのが気配で分かる。
「もう、意地を張るのはやめてください。俺が何かしたのなら謝ります。言いたくないことがあるなら無理には聞きません。
さっき、頭に血が上って大声を出したのもすみませんでした。だから…… 」
別れるとか、言わないでくださいーーー。
傍らで膝を折った央翔に、左手を取られる。両手で祈るように懇願され、真祝は俯いた。
「真祝さん。お願いですから、顔を上げて。俺のことを見てください 」
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