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しおりを挟む初めは抵抗していた真祝も、その優しくて甘い麻薬の様な口付けに抗うのを止めた。
それに気付いたのか、段々に深くなってゆく口付けに合わせるように、二海人が動きを止めていた腰を揺らし始めた。
「ぐ……っ?! ん…… 」
「直ぐに終わらせるから。……ごめん、な 」
心とは反対に逃げようとする身体を、宥める様な口付けを与えながら押さえ付ける。
内壁を擦られる動きに吐き気と頭痛は増したが、二海人の欲望を体内でダイレクトに感じて、嬉しさと切なさが綯い交ぜになり心臓が引き絞られる様に痛くなった。
「へい、き。すき…… 」
発情期でも、もう誘うようなフェロモンを放っている訳ではない。
それを感じることが出来るのは番である央翔だけだ。 それなのに、二海人は自分に欲情してくれている。
「すき、二海人。すごく、すき、いちば、ん、すき 」
「……っ 」
突然、脇の下から入れられた腕が肩を掴み、引き寄せ、身体の最奥まで二海人の雄茎を呑み込まされる。
内臓がせりあがる感覚に今度こそ我慢し切れそうになくなって、二海人の肩に噛み付いた。
「く……、ま、ほ? 」
「いい、から……っ。 絶対に、止めない、で。最後までして 」
身体を蹂躙する凶器に似たそれに、早く奥まで濡らされたかった。溢れるくらいに貰うまで、安心なんか出来ない。
「欲しいよ、早く 」
「……分かった 」
抽挿が激しくなった。揺さぶられる度に視界が瞬く。
更に酷くなる不快感を堪えるため、真祝は、もっと深く二海人に歯を立ててしまう。鉄の味が口の中に広がった。皮膚が破れて、相当痛いと思うけれど二海人は何も言わない。
真祝にしても、こうしなければこの苦しさに耐えられそうになかった。
しがみつき、揺り動かされるままの真祝の内側を押し広げ、容積を増す灼熱がぐっと奥まで突き入れられる。子宮口に熱い体液をぶつけられ、「あ…… 」と口から声が漏れた。
腹の内側に広がっていく熱。
何が起きたのか理解すると同時に、徐々に歓喜が湧き上がってくる。
ずっとこれが欲しかった。Ωの本能に逆らってでも。
ゆっくりと送られる残滓さえも取り零したくなくて、二海人の腰に足を絡める。
「嬉し……。 僕ん中、二海人でいっぱい 」
額に張り付いた髪を払ってくれる手が、優しくて嬉しい。真祝はその手を取ると、自分の手を重ねて頬に持っていく。
「も、死んでも、い…… 」
涙が溢れて、溢れて、止まらない。色んな感情が胸の中で鬩ぎ合う。
すりっと二海人の手に頬を寄せると、柔らかく包む様に触れてくれた。例え、それが同情からだとしても、今はその優しい気持ちに縋りたかった。
「……くそっ、こんな事なら 」
二海人の吐き捨てる様な声が聞こえる。だけど、曇る視界の中ではその表情は見えない。
でも、見えなくて良かったと思う。二海人が怒るのは当然だけど、出来るならそんな顔を心に焼き付けたくない。
真祝は薄く微笑みながら、首を振った。
分かってる、僕は最低だ。
そして、本来なら1番に愛するべきだった運命の番を思い浮かべる。
ごめん、央翔。僕はもう、お前の所に戻れない。
だって、幸せなんだよ。あんなに大切に抱いて貰った何回よりも、ただ、この1回がこんなにも嬉しい。
この思い出さえあれば、どんな罰を受けようとも生きていけるとさえ思えた。
熱が引き、ズルリと二海人が真祝の内部から出ていく。ぞくりと背中が震えて、現実に戻ったことを知った。
「ありがと……、ごめんね 」
番持ちで発情期のΩなんか、抱いてくれて。
少しの間の後、二海人が言う。
「お前は、本当に馬鹿だよ 」
「……だから、馬鹿って言うな 」
思わず笑った真祝の口唇に、そっと落とされた柔らかな口付けは涙の味がした。
お互いに、今しかないことは分かっていたのだ。
片方は諦めるために。もう片方は諦めないために……。
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