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 その、男の色気が漂う仕種に、真祝は一瞬で自分の顔が蒸気するのが分かった。
 汚ならしく見えかねない格好も、する人がすれば、魅力が増すだけなのだなと思う。要するに、男前は何をやっても男前ということだ。それ以上の感情なんか、あるものか。


 「……そんな事どうでもいいよ。俺はお前に聞きたいことがあって来た 」

 「聞きたいこと? 」

 「久我くが 京香きょうこ……、知ってるだろ?」

 その名前を聞いた途端、二海人が口唇の片端をふっと持ち上げた。


 「そんなことで来たのか? 」

 その表情かおで確信する。やっぱり、京香の想い人は二海人だったと。

 「やっぱり、お前…… 」

 「まぁ、立ち話もなんだから。中、入れよ 」


 二海人に顎で促され、真祝は思い出したくもない思い出の残る部屋へと、足を踏み入れた。

 ガチャンとドアの閉まる音が響く。二海人が真祝を追い越して、先に部屋の奥に入って行った。真祝もその後に続く。


 「まだ、ここに住んでたんだ 」

 ポツリとそう言ったら、少しの沈黙の後に「気に入ってるからな 」と二海人は言った。
 

 「取り敢えず、座っとけよ。コーヒー、飲むだろ? 」

 言いながら、二海人がけだるげにキッチンへと向かう。
 その姿を思わず、真祝は目で追ってしまった。湯を沸かしている間も、ずっと見詰めている自分に気付き、慌てて視線を逸らす。

 ポコポコと電子ケトルの音に共鳴するみたいに、ドキドキと鳴る胸を真祝は叩いた。

 うるせぇ! 静まれよ、俺の心臓!!


 認めたくはなかったが、認めざるをえない。真祝は久し振りの二海人の存在に心が震えるのを感じていた。


 ……何なんだよ、1年経ったってのに、まだコレかよ。

 キリッと口唇の端を噛む。薬指の指輪がひんやりと重い。確かめる様に右手を重ねれば、金属の冷たさが真祝を現実に呼び戻す。 
 あの頃とは違うのだ。一途に二海人だけを想えていたあの頃とは。


 「何、突っ立ってんだよ。直ぐ持ってくから待ってなさいよって 」

 「あ、あぁ…… 」

 
 悩んで、真祝の知らない、新しいアイボリーのソファーの一番奥側に腰掛けた。

 
 「……買い替えたんだ 」

 「いい色だろ? 」

 ふわりとコーヒーの薫りがして、真祝が顔を上げると、「随分、端っこに座ってんな  」と二海人が笑いながら、ソファーテーブルに真祝の分のコーヒーを置いた。

 自分のコーヒーを飲みながら、二海人も反対側寄りに座る。


 「……で、ここに来てまでも言いたいことっての、聞くよ? 」

 そう、京香のことを聞きに来た筈だった。
 本当に二海人だったのか本人の口から聞いて、どうしてそんなことをしたのか確かめるため。それなのに、口を突いて出たのは、違う言葉だった。


 「二海人は、大事な彼女とはうまくやってるの? 」

  
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