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しおりを挟む「名前、は? 」
「ちゃんとは聞いていません、連絡先も……。真祝さん? 」
真祝は、自分の考えを打ち消すように顔を振る。
いや、まだ100%ではない。自分の思い過ごしかも知れない。まさか、だって、いくら何でも、あの二海人だって、そこまでするだろうか。
「真祝さん、どうされたんですか? すごく顔色が悪いです 」
動悸が激しい。身体全体に心臓の鼓動がドクドクと響く。もう考えるのはよせと自分に言うのに、思考は止まらない。
1年前のあの出来事が起きて、そのあと何が起きた?
全ては、俺が京香ちゃんを助けたことから始まったのでは無かったのか。でも、そんな都合良く事が運ぶなんてことがあるだろうか?
でもそれは、普通なら……だ。考えて実行したのが二海人なら、話は別だ。誰よりも聡く知略縦横なあの男は、無理だと思われる様なことでも、やると決めたなら完璧にこなすだろう。完全な下調べの上で。
思えば、今の仕事を勧めてきたのも、アイツだった。……どこからだ?
背中に冷たいものが落ちる。ゾクリと身体が震えた。
「ねぇ。『ちゃんとは』って、どういう意味?」
「真祝さん、本当に具合が…… 」
「いいから、教えて 」
違うなら、いい。違うという確証が欲しい。
真祝の真剣な表情に、京香は躊躇った素振りを見せたが、コクンと頷いて言った。
「スマホに、大人の男の人には似合わない、可愛らしいキャラクターのストラップを付けていたんです。大漁旗を背負って得意そうな顔をしている猫の…… 」
「猫って、『カイくん』?」
キョロッとした目と大きな耳、エラそうな態度の猫の『カイくん』は、若い子達に人気のあるキャラクターだ。真祝はこのキャラクターが好きだった。白に水色の模様の猫の名前の響きは、海を連想させ、更に名前に【海】の文字を持つ好きな男を思い起こさせた。
「はい、そうです。だから、『カイさん』と呼んでいたんです。 」
……二海人だ。
京香の言うストラップが、脳裏にまざまざと浮かぶ。
だって、俺が付けたんだから。
『お前にそっくりだな、アーモンドみたいな目と生意気そうなアヒル口 』
カイくんシリーズの300円のカプセルトイ、所謂ガチャガチャ。カプセルを開けて中身を見た途端、覗いていた二海人はそう言った。
生意気ってなんだよと笑いながら、二海人の手から持っていたスマホを奪う。
海と大漁旗、2人の名前を合わせた様なデザイン。しかも生意気な猫が自分と似てるというなら。
『じゃあ、これはお前にやるよ 』と、真祝は二海人のスマホにストラップを取り付けた。
『これでずっと、俺と一緒だな。嬉しいだろ? 』
悪戯っぽく笑ってスマホを返せば、『そうだな 』と二海人も笑って受け取った。外されるかと思ったのに、存外気にいったのか、それからもずっと付けたままだった。
願いは打ち砕かれた。当たって欲しくなかった、俺の勘なんて。
「く、そっ 」
女の子の前なのに、汚ない言葉が口から零れた。
何でだよ。 何で今更、俺の心を掻き乱すんだ。俺はもう、央翔と生きていくことを決めたのに!!
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