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しおりを挟む「初めて逢ったのは、友人とショッピングに行った帰りだったんです。学校の乗り換えする駅の近くで落ちているハンカチをあの人が拾ってくれて、でもそれは私のモノではなかったので、2人で駅員さんに届けたんです 」
その時の、『どうしようか? 』と少し困った表情の彼を、年上の男性だというのにとても可愛らしく思ってしまったと彼女は言った。
スッと整った鼻梁、いつも微笑みを湛えている薄い口唇、笑った時の切れ長の涼し気な目許に寄る目尻のしわ、優しそうな物腰、背中に一本、筋の通ったような姿勢の良い立ち姿、京香は直ぐに心を奪われたという。
そこまで聞いた真祝は、「あー…… 」と、思わず声を出してしまった。
「真祝さん? 」
「それで、そのイケメンさんは、勿論背も高くて、足もなっげーんだろうね。ついでに手も綺麗とか? 」
京香が、ポッと頬を染めるのを見て、自分の言ったことが正解だったと分かり、真祝は肩を竦める。
随分と、ハイスペックな外見の男だ。そんなヤツが幾ら可愛くても、ただ駅で出逢ったJKの相手をするか? ロリコンか? それとも彼女のバックを知っているのか? いづれにしても、胡散臭い。
赤くした自分の頬を挟むように手を当てる京香が、「聞いてはいないんですけれど、きっとあの人はαだと思うんです」と言った。
「……いや、世の中にはαよりαらしい、βの男もいるけどね 」
苦笑いをすれば、京香が「いえ! あの人は絶対にそうです! 」と力説した。
「本当に素敵な人なんです! αに間違いありません!!
その時は恥ずかしくて、名前も連絡先も聞けなかったんですけれど、後からとても後悔しました。でも、どうしても逢いたくて、もしかしたら、通学に沿線の電車を使ったら会えるかも知れないと思ったんです。勿論、兄にも富樫にも大反対されました。だけど、社会勉強という事で両親に許しをもらって……。
それでも、また出逢えるなんて本当には思っていませんでした。だから、初日から偶然にも乗り換えの駅のコーヒーショップで再会することが出来た時は、運命だと思ったんです 」
窓向きカウンターでコーヒーを飲むその人は、彼を見つけ、その場で立ち尽くしていた京香に微笑みながら、ヒラヒラとガラス越しに手を振ってくれたという。京香は次の瞬間、弾かれた様にコーヒーショップに飛び込んでいた。
そして、京香の行動に驚きながらも、その人は『ここ、空いてますよ 』と、自分の隣の席を勧めてくれた。
「あの人は毎朝、そこでコーヒーを飲んでから出勤するのが日課だと言っていました。
けれど、コーヒー1杯の時間はあまりにも短くて、飲み終わって席を立とうとするあの人に、思い切って『明日も来てもいいですか?また、お話してもいいですか? 』と聞きました。もう、後悔はしたくなかったから。
私の突拍子もないお願いにあの人はビックリしたみたいでしたけれど、また直ぐに笑って、『こんなに可愛らしい方とご相伴出来るなんて、嬉しいです。歓迎しますよ 』と言ってくれました 」
そこまで聞いた真祝は、やっぱり……と、思った。そして、謎も解けた。
「だから、あの日も電車で通学したんだね? 」
京香が、コクリと頷く。
「コーヒー1杯の時間ですけれど、私にとっては宝物でした。短くても、知性と品性を兼ね備えたあの人とのお喋りは楽しくて、毎日会えるのが嬉しくて、幸せで。
だから、あの日、体調がおかしかったのに、あの人に逢うために電車に乗ってしまったんです 」
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