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しおりを挟む畳みかけるように言われて、真祝は言葉が出なくなる。
「柚井様、貴方様は何がご心配なのです? 央翔様に対して何が不安なのですか? 私が言うのもなんですが、央翔様は…… 」
「真祝さん……っ! 」
富樫を遮る様に、真祝の名前を呼ぶ声がした。見上げた、大きなサーキュラー階段の上には、びしょ濡れの髪を拭きもせず、スラックスの上に白いシャツを釦《ボタン》も留めず羽織ったままの央翔が立っていた。
「どこに……っ、行ったかとっ 」
大会社の御曹司にあるまじき格好だ。どれだけ、慌ててるんだよ。
「帰るよ、ありがとな 」
「待ってください! 送ります! 」
「お前、今日は仕事行くんだろ? 」
いいよと手を掲げれば、央翔が急いで階段を降りて来る。どれだけだよと、真祝は思わず笑ってしまう。そして、富樫だけに聞こえる声で言った。
「分かってますよ、富樫さん。アイツが俺には勿体ない位にいい男だってことも、俺を大切に想ってくれてることも 」
「柚井さん…… 」
そろそろ、覚悟を決める時が来たのかもしれない。
「真祝さんっ 」
濡れた身体に飛び付かれて、抱き締められる。
髪から滴る水に「冷たいぞ 」と言ったら、「すみません 」と謝られた。けれど離れる気はないらしい。
「なぁ、央翔 」
背中に回した手に、ピクッと真祝を包む身体が揺れる。
「お前、俺に正式なプロポーズしてくれんだって? 」
「え…… 」
絶句する央翔の素肌の胸に、「言ってみろよ 」と顔を埋めた。
「今なら聞いてやる 」
「真……祝さ…… 」
抗えきれない番の香り。この、甘い匂いと空気に身を委ねてしまうのは、何て気持ちが良くて、楽なんだろう。
うっとりと目を瞑りながら、自分の気持ちに拘るのは馬鹿げていることなのかも知れないと、真祝は思った。
「ずっと、避けてたくせに 」
拗ねたように言われて、「しないなら、別にいい 」と返せば、「冗談 」と嬉しそうに笑う。
「俺、こんな格好なのにごめんね。でも、真祝さんの気が変わっちゃったら困るから 」
央翔はそう言うと、スッと一歩下がって真祝の前に跪く。
緊張しているのか、息を吸って呼吸を整える。息を吐くと同時に開いた明るい色の瞳が、見惚れそうなくらいにキラリと輝いた。
「愛してます。結婚してください 」
王子の様な人間からの飾らないストレートな求婚に、ときめかない者などこの世にいるのだろうか?
「お前、ずるい…… 」
「大切にします。誰からも傷付けられないように、俺が貴方を守ります。だから…… 」
ポケットから取り出した、小さな小箱。央翔が立てた片膝の上でパコッと空けると、その中には、大きなダイヤモンドの指輪が入っていた。
「お願いです、受け取って? 」
ダイヤモンドより綺麗な微笑みが、眩しくて目眩がする。
「お前、いつも持ち歩いてたのか? 」
「いつでもしたかったし、チャンスは逃したくなかったので 」
気恥ずかしさに揶揄うつもりでそう言ったのに、返って来た答えは至極真っ当で、更に真祝を恥ずかしくさせた。
助けてよ……と、困って富樫の方を見ると、富樫はニコニコと笑っているだけ。
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