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しおりを挟むまさか聞かれているとは思っていなかった呟きを聞かれていたと知って、カアッと顔が熱くなる。
「真祝さんの耳、朱い。美味しそう…… 」
「ば……っ!」
ぱくりと耳を咥えられ、驚いて振り向けば、そのままくるりと身体を反転させられて、正面から捕まえられた。
「発情期が終わったっていうのに、こんなに俺のこと誘ってどうするの?」
髪と同じ色の、煌めいた睫毛に縁取られた瞳が、柔らかく細められる。その緑がかったアースカラーの瞳の奥、揺らめく欲望が隠し切れずに仄かに燃えるのが見えた。
「お、まえっ、冗談にならない……っ! 」
恥ずかしさのあまり、真祝は腕を顔の前で交差して隠す。
「何で隠すんですか。見せて下さいよ 」
「やだっ! 」
「あのね、真祝さん。俺ね、いつも思うんです 」
「何を! 」
どうせ、碌なことを言われない。自棄になってそう言う真祝に、央翔がふふっと楽しそうに笑った。
「こんなに綺麗で可愛い真祝さんが俺の番だなんて、俺は本当に幸せだって。きっと俺達の子…… 」
言い掛けて、央翔がハッとした様に口を噤んだ。止めた言葉の続きが分かって、真祝は身体を固くする。
αがΩに種付けしたいのは当然だ。央翔が自分と結婚したがっているのを知っていて、セックスの結果である子供を欲しがっていることも知っていて、それでいて、まだ決心が付かないから何も言うことが出来ない。
「ごめん 」
詰まってそれだけ言ったら、サラリと指先で前髪を上げて、真祝の額に口唇を寄せた。
「俺の方こそ、すみません。ちょっと、調子に乗りました 」
自分のことを考えてくれる気持ちが切なくて、真祝は少し泣きたくなった。
何を迷うことがある。Ωだったらこんな理想の相手、探したって見付かるもんじゃないのに……。
央翔は優しい。とても、優しい。
だけど、この、胸の奥にポッカリと穴が空いている感覚は何んなんだろう。
「もう、お帰りですか? 」
挨拶をしに、富樫の所へ顔を出すと、「朝食はどうなされます? 」と聞かれた。
「すみません、今日は帰ります 」
折角用意してくれていると分かってはいるが、一週間も部屋に籠って、ここの大事な坊っちゃんと毎日セックスをしていた身としては、一刻も早くここから辞したい。居たたまれない。
お世話になりましたと頭を下げると、「央翔様は知っておられるので? 」と聞いてきた。
「いえ、央……、久我さんはまだ部屋に、います…… 」
央翔がシャワーを浴びている間に、逃げるように部屋を出てきたのだ。口籠る真祝に、「それでは、お帰しすることは出来ませんね 」と、富樫がニッコリと微笑った。
「央翔様の大切な想い人をこのまま帰してしまっては、私が叱られてしまいます 」
「……っ?! お、想い人って……っ、俺なんか 」
突然、そんなことを言われて焦った真祝に、「おや、まだ央翔様は柚井様に想いを伝えておられないのですか? 」と連射された。
「え……?、あ、う…… 」
白い手袋を嵌めた手を口元に当て、ふむと富樫が眉を顰めて息を吐く。
「全く、駄目な方だ。今回こそは正式にプロポーズをするとおっしゃっていたのに 」
「ぷっ、ぷろぽーずっ?! 」
いや、待て。結婚して欲しいとは前に言われている。でも、正式にって。
「そんな顔をなさって、柚井様もお人が悪い。央翔様の気持ちなど、とうにご存知でしょうに 」
「でも、でも……っ 」
「央翔様は柚井様を日陰者にするおつもりはありませんよ。きちんとお迎えするべく、父上である当家の主人にもお話は通してあります。私共もずっと、柚井様が央翔様の元にいらっしゃるのをお待ちしております。後は、柚井様のお気持ちだけですのに 」
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