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しおりを挟むここまでストレートに愛情を訴えられて、真祝は戸惑う。
そんなこと、言うなよ……。俺はお前が憎いんだ、大っ嫌いなんだ、だけど……。
大会社の御曹司で、輝かしい未来が約束されている、αという第1級のステイタスに生まれ、しかもそれに見合った能力、人目を引く整った顔立ち、日本人離れしたスタイルと、人が欲しいものを全て持っているような男。誰もが羨む様な、そんな奴が、何を好き好んで年上の、男Ωなんかに愛を乞うのか。
「バカ……だよな、お前。運命の番なんてものに拘らなきゃ、どんな相手でも選び放題だろうに…… 」
「真祝さん以外の人なんていりません。」
真祝の言葉を遮って、キッパリと言い切る。迷いの無い瞳に、真祝は怯んだ。
「そんなこと言って、お、お前は、俺が運命の番じゃ無かったら、俺なんか見向きもしなかっただろ?! 」
そうだ、愛なんておかしい。運命の番なんていう、自分ではどうにもならない本能に、お互い翻弄されているだけだ。
けれど、央翔は言う。
「そんなこと、分かりません。運命の番じゃない貴方なんて、俺は知りませんから 」
真祝さんだって、同じでしょう?ーーーと言われて、グッと言葉が詰まり何も言えなくなる。
確かにそうだ、俺はコイツと会う前から、コイツの落として行ったジャケットの匂いだけで発情させられたのだから。そんな風にさせられてしまうのは、運命の番だったからだ。
そして、央翔は夢見るように続けた。
「貴方に会う前から、貴方が俺の家に残した残り香で、貴方が俺の運命だと分かりました…… 」
ふと、央翔が考え込む表情を見せ、「あぁ 」と呟いた。
「やっぱり、最初から分かっていたんです。貴方と初めて電話で話したあの時、いつまでも貴方の声を聞いていたいと思った。鈴の柔らかい音色のように、とても心地良く耳に響いていた。だから、とても納得したんです。あの時厳しいことを言われていたのに、頬の緩みが止まらなかった事も 」
「……っ! そこからかよっ 」
けれど、入れたツッコミはさらりと受け流された。
「そうですよ。本能だろうが何だろうが、声を聞いた時から、出逢った時から、俺は真祝さんを愛してるんです 」
勝手なことを言うなと、怒鳴り付けてやればいい。そう思ってる自分が居るのに、こんなにも真摯に心の内の全てを見せられれば、何も言えなくなってしまう。
……いや、そんなのは言い訳だ。だって、全部が嫌いだなんて嘘だ。初めから好きだったと言われて、コイツの番としての自分が、心の奥底で喜んでいる。愛する人から愛されなかった自分を、愛して欲しいと泣いている。
「 ……俺は、お前のこと愛してない 」
つぅ……っと、左の目から涙が頬を伝った。
「真祝、さん? 」
「でも、俺にはもう、何も無いんだ 。だから 」
そう、何もない。好きな人との未来も、好きな人の為に守るべき貞節も。
「お前のことは一生許さないけど、一緒に居てやってもいいよ、央翔 」
自分をこの世で一番欲しがっているのが、この男なのなら与えてやってもいいかと思った。それが、自分から全てを奪った男でも。
そうしなければ、何かに縋らなければ、もう、この場所に、この世界に、立っていることも出来ないだろうと思った。
「それでも、いいです 」と、抱き締めてキスした央翔の口唇はとても冷たかった。
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