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 コクンと喉奥が鳴る音が、静かな部屋に響いた気がした。


 「何でとはご挨拶ですね。こんな所に居るなんて、どうしてかこっちが聞きたい位ですよ  」

 呆れた様な吐息とそく。乱れた髪をかき上げて、ここに居る筈の無い男は、「……いいコで家にいなさいと、言ったでしょう 」と怒りを秘めた声で言った。

 オクターブ下げた低い声に、身体がビクリと震える。

 
 「お、お前に関係ない…… 」

 鋭い視線に耐えられなくて、ふいっと横を向く。

 もう、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 どうして? 何で? ーーー答えなんか1つしかないのに、何度も何度も同じ問いが頭を巡る。

  
 「そんなことを言うなんて、……悪いコですね 」

 ふっと、央翔が微笑った気がした。


 「悪いコには、お仕置きが必要だ 」

 久我 央翔は、もうαの本性を隠そうともしなかった。


 生まれながらの支配者たらん威圧感と、無遠慮に撒き散らされるαのフェロモン。息をする度、内側が侵食され、身体中に酔いがまわっていくようだ。

 呼応するように、身体の奥が切なく濡れて、甘い蜜を垂らす。息苦しさに、真祝は胸元を押さえた。


 「いや、だ。はっ…… 」

 「匂いが強くなった。期待してるんですか? 」

 手の甲で口元を押さえ、噎せた様に1つ咳をすると、央翔が近付いて来る。

 自分が思う以上に、自分もフェロモンを発しているのだろう。発情期の身体は、番を見つけて喜び、誘っているのだ。


 「く、来るな。二海人は? 二海人はどこだよ  」

 焦って周りを見回すが、二海人の姿は無い。

 どうしよう、怖い。このままだと壊される、狂わされる。


 「二海人っ、 二海人っ! 」

 けれど、逃げようと後退さっても、背中には虚しくソファーの背があるだけだった。

 「……全く。他の男の所へ逃げて、他の男の部屋で、他の男の服を着て 」

 央翔は苛立たし気にそう言うと、ほむらを湛えた瞳でソファーで横たわる真祝を見下ろす。


 「二海人……っ! 」
 
 「他の男の名前を呼んで 」

 舌打ちとともに、叩き付けるようにソファーに身体を押し倒された。ぎりっ……と、肩を掴む指が食い込む。

 「……ッつ!」

 「いくら呼んだって、嵐柴さんは来ませんよ 」

 のし掛かって来た央翔が、ぐいっとスウェットの裾を捲ってきた。ギョッとした真祝は声をあげる。


 「なっ、何すんだよっ……! 」

 「こんなの脱いでくださいよ、脱いで。貴方がアイツの服を着ているなんて、許せない 」

 「やめろ、よっ! ここ、どこだと思ってんだっ 」

 だが、央翔は真祝の抵抗などものともせずに、あっさりとスウェットの上を剥ぎ取った。

 直肌を後ろから包み込むように、抱き締めてくる逞しい腕。項の噛み跡へ、口付けられる感触に全身が震える。

 二海人の安心する匂いとは違う、官能を呼び覚ます匂いに包まれて、ずくんと身体の奥が搾られるみたいにあまく痛む。

 嫌だと思っているのに、力が抜けてスウェットの下を脱がす手を止められない。線を辿る指先に、身体が快感だけを追おうする。最後の下着までするりと剥かれて、真祝は生まれたままの姿にさせられた。

 こんなに、いとも簡単に手中に落とされてしまう。 これが、α? これが……、番?

 ぼんやりとした頭の中で思った。 もしそうならば、この力に抗える者なんて、いるのだろうか?
 
 全てを委ねてしまいそうになったその時、耳許で、ふっ……と央翔が笑った。

 違、う……!!



 そんなことなんか、あるもんか! 俺は、俺が好きなのは……。


 突然、怒りと悔しさでいっぱいになる。真祝は残っていた自我を振り絞って叫んだ。
  

 「そんなに、俺は邪魔かよっ。そんなに俺の気持ちは、迷惑だったのかよ……っ! 」

  
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