59 / 152
8.
12-1
しおりを挟む◆◆◆◆◆◆
思ったよりも、遅くなってしまった。
会社のビルの地下駐車場に停めていた車に、央翔は急いで乗り込んだ。チラリと車内の時計を見ると、既に20時を回っている。いつもよりはずっと早い時間だったが、今日はもっと早く退社する予定だった。
昨日は頭に血がのぼってしまい、売り言葉に買い言葉で、あんなことを言って部屋を出て来てしまったが、央翔は本当は心配で堪らなかった。
「でも、真祝さんも真祝さんだ…… 」
今日1日、何度スマホを見たか知れない。でも意地っ張りなあの人は、決して央翔に連絡を寄越しては来なかった。
発情期2日目で、身体が辛くない訳がない。助けを呼んでくれれば、どんなに仕事が忙しくても、直ぐに早退して駆け付ける心積もりだった。
なのに、電話もメールも無いまま、虚しく時間は過ぎ、普通通りに、1日、仕事をこなしてしまった。いや……。
央翔は1人で、深いため息を吐いた。
あまい誘惑香と、それ以上にあまい真祝の喘ぐ声。
指先にしっとりと吸い付く、滑らかな肌を思い出すだけで、堪えていた欲望が熾火のように燻る。油断すれば直ぐに燃え上がり、理性を凌駕してしまいそうな本能と、1日中戦うしかなかった。
仕事に没頭していなければ、どうにかなってしまいそうだったのだ。
『発情期休暇』が、Ωだけでなくパートナーのαにも適用される意味を、身を持って知った。
けれど、その分仕事を進められたし、部下にも指示を済ませ、明日は休みを取ることが出来た。
1日では足りないかも知れないが、この腕の中で時間を掛けてじっくりと甘やかしたい。
昨日は性急に求めてしまったけれど、今夜はとろとろに溶けてゆくあの人を、丁寧に優しく愛したい。
そして、あの、熟れた果実のような口唇から零れる蜜のような声で、今度こそ自分の名前を呼んで貰う。
『いい……っ、ふみ……とっ。すき、もっと、もっとし、て。すき、ふみ……っ、ふみとぉ…… 』
発情時の過ぎる快感に朦朧としていたのだろう。 最奥を突かれながら、真祝は何度もあの男の名前を呼んだ。何度も、何度も。
央翔は、口内に広がる鉄の苦味に気付いた。昨夜のことを思い出して、知らずうちに口元を噛みしめていたらしい。
もう、2度と自分に抱かれながら、他の男の名前は呼ばせない。
いづれは、真祝さん自身の口からアフターピルは使わないと言わせてみせる。
央翔は真っ直ぐに前を見詰めた。
車を走らせる車道の先に、自分だけの番である筈の、最愛の人が住む建物が見えて来た。
35
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる