上 下
55 / 149
7.

11-7

しおりを挟む




 数時間前、突然きた激しい発情期に、二海人に助けて欲しくて電話をした。電話口の二海人はいつもの優しい声で、『待ってろ、直ぐに行くから  』と言っていた。

 でも来たのは、央翔だった。


 「どうして、アイツは来ないんだ?…… 」

 「他に用事があると言ってました。」

 「用事って、何? 」

 央翔に聞いたって分かる筈がないと思った。でも、聞かずにはいられなかった。
 今まで二海人は、真祝が辛い時には何よりも真祝を優先してくれていたからだ。愛されてはいなくても、友人として大切にされている。その自負はあった。

 けれど央翔は、知らないと思い込んでいた真祝の質問に直ぐ様答える。


 「嵐柴さんには、とても大事に思う人がいるんですよ 」

 「え…… 」

 「その人と話している時、とても優しい顔をしていました 」

 頭をガツンと殴られた気がした。


 「う、そだ 」

 「嘘じゃありません。僕は見ました。あんな表情をするなんて、きっと恋人なんじゃないかな  」

 首を振る真祝に、追い討ちを掛けるように言う。


 「恋人がいるなんて、聞いたことない 」

 すると、央翔が可笑しそうにクスリと笑った。


 「真祝さんには言わないと思いますよ 」

 「どうして…… 」


 問いながら、それは一理ある気がした。

 こんなに、好きだ好きだと言っている真祝に恋人が出来たなんて、二海人が言える訳がない。
 もしそうなら、一体、どんな子なんだろうか。綺麗な子なのだろうか、それとも可愛らしい感じなのだろうか。

 好きな女の子のタイプなんて知らない。聞きたくもなくて、話したことなんか無かった。
 だから、想像なんて出来ないし、央翔の言葉を信じたくもない。


 「本人に聞く 」

 「顔色が悪いですよ 」

 「二海人に聞く 」

 「……聞いたって仕方ないじゃないですか 」

 カッと頭に血が上《の》ぼり、大きく央翔を避けて、横を行き過ぎようとすると、後ろから腕を掴まれた。


 「離せよ! 」

 振りほどこうとすると、掴む力が更に増す。

 「何をする気ですか 」

 「二海人んとこに行く。服、着んだから離せって 」

 それを聞いた央翔が、また、わざとらしいため息を吐く。


 「そんなに体調が悪そうなのに、外に出す訳にはいきません  」

 そう言うと、央翔が真祝の手を思い切り引いた。強い力に、よろめいた真祝は央翔の胸に倒れ込む。


 「どうせ会いに行っても、今は会えませんよ」

 「何でそんなこと、お前に言われなくちゃならない! 」

 「何んで、嵐柴さんが僕をここに寄越したと思ってるんですか? 」

 「知るもんか! だから、その理由も聞くんだ、ろ…… 」

 胸の中で見上げれば、同情するような瞳と視線がぶつかり、先の言葉が詰まった。


 「よく考えてください。あの人は《真祝さんより》も、《大切な用事》があって、ここには来られないんですよ? 」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

抱きしめたいあなたは、指をのばせば届く距離なのに〖完結〗

華周夏
BL
恋人を事故で失った咲也の自殺未遂。 内に籠り不眠や不安をアルコールに頼る咲也を溶かしていくのは、咲也を気にかけてくれるアパートの大家、赤根巌だった。 頑なな咲也の心を、優しい巌の気持ちが溶かしていく──。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

あなたの世界で、僕は。

花町 シュガー
BL
「あなたの守るものを、僕も守りたい。 ーーただ、それだけなんです」 主人公ではない脇役同士の物語。 *** メインCP→ 〈鼻の効かないα騎士団長 × 選ばれなかったΩ〉 サブCP→ 〈α国王陛下 × 選ばれたΩ〉 この作品は、BLove様主催「第三回短編小説コンテスト」において、優秀賞をいただきました。 本編と番外編があります。 番外編は皆さまからいただくリクエストでつくられています。 「こんなシチュエーションが読みたい」等ありましたらお気軽にコメントへお書きください\(*ˊᗜˋ*)/

可愛くない僕は愛されない…はず

おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。 押しが強いスパダリα ‪✕‬‪‪ 逃げるツンツンデレΩ ハッピーエンドです! 病んでる受けが好みです。 闇描写大好きです(*´`) ※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております! また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)

処理中です...