月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

文字の大きさ
上 下
49 / 152
7.

11-1※

しおりを挟む






 ◆◆◆◆◆◆


 火照る身体が熱くて、燃える様だ。息をするだけで喉がひゅうと鳴り、焼け付くように痛い。
 このまま灰になってしまえれば、そっちの方がどんなにか楽だろう。 
 
 
 「……んっ、あ、は……っ 」
 
  熱を収めたくて、何度目かの欲望を放とうとするけれど、手に力が入らなくなっていた。膝ががくがくして、手足の先が痺れる。
 
 どうしよう、ここまで酷い発情は初めてだ。激しいヒートに身体が耐えられなくて死んでしまうΩもいるという。もしかして、自分も死んでしまうのかもしれない。
 そう思ったら、真祝は突然怖くなった。

 
  嫌だ……っ! 助けて、助けてっ!!
 
 「二、海人……ッ 」
 

 ―――『少し待ってろ、直ぐに行くから 』

 
 さっき聞いた、愛しい男の声を思い出したら少し恐怖が和らいだ。
 
 二海人なら助けてくれる。苦しい時には、いつも自分を助けてくれた。だからきっと、今回のこの苦しみからも救ってくれる。
 
 
 「あ…、は、く……っ。ふみ、と、……み、とぉ…… 」
 
 早く、早く来て。抱きしめて。
 
 
 肘が重くて、その場から動くことも出来ない。   
 もどかしくベッドに押し付けながら、力の入らない手でシーツを掴むと、白い布が弱々しい波を作る。
 
 その時、ガチャッとドアの開く音がした。
 
 
 「ふ、みと……? 」
 
 やっと来てくれた。安心感からか、涙が溢れて来るのが分かる。しかし、その安心感は次の瞬間、霧散した。
 
 

 「真祝さん……? 」

 声と同時に甘い香りが部屋に広がる。

 
 ギョッとしてドアの方を見れば、そこに居たのは……。
 
 
 「く、が……? 」

 霞む視界の中に、見知った男の姿が見える。ザーッと血の気が下がる音が聞こえた。
 
 
 「な…… 」
 
 ……んで、お前がここに?
 

 問いたいが、頭の中が真っ白になってしまい声が詰まった。ただ、こんな所へαが来たらとんでもないことになるのは容易に想像が付く。
 
 
 「真祝さん、発情期…… 」
 
 けほっと咳き込みながら、央翔が手の甲で口許と鼻を押さえた。
 
 
 「匂いに噎せ返りそうです。かなり、酷いみたいですね。 大丈夫ですか? 」
 
 「く、来るな 」
 
 ふらりとよろめきながら近付いて来る央翔に、真祝はゆるゆると首を振る。
 心臓が狂ったように鼓動を打ち、息が出来ないくらいに苦しい。掠れる声を絞り出すのが精一杯だった。
 
 後退去あとずさろうとするが、力の入らない手では這うことも出来ないし、重い足はずるりと弱くシーツを蹴るだけで動かない。
 
 しかし反対に、央翔の放つ甘ったるい匂いは真祝の中心を刺激する。張り詰めた下半身はびくびくと震え、後ろからもたらりと蜜が溢れてくるのが分かり、ぎょっとした。
 
 
 「そんなに辛そうなのに、何を言っているんですか 」
 
 「やだ。来ない、で 」
 
 
 真っ直ぐに、瞬きもせず見詰めてくる央翔の目が怖い。獲物を捕らえようとする肉食獣の様な瞳。
 
 真祝はこの目を知っていた。あの時と同じ、だがあの時とは違う。αに襲われそうなこの状況で、自分の身体のこの反応は何だ?
 
 
 「……あぁ、どれだけフェロモン出してるの。頭がくらくらする。意識が遠退きそうだ 」
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

処理中です...