月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 「俺はいいが……、いいのか、四宮? 」
  
  
 低く声音を変えて、四宮に聞く。
  
 「俺は今、至極機嫌が悪い。俺がそこら辺のαになんかに負けねぇのは、お前は1番良く分かってんじゃねぇのか? 」
  
 ガキの頃の事だけじゃなく、高校の時の事件の事の顛末も知っているのなら。
  

 青くなり、震えている四宮が、「止め、ろ 」と二人を制した。
  
 「でも、ミヤ……、コイツ 」
  
 「お前らが敵う相手じゃねぇよ 」
  
  
 手の甲で血を拭いながら、四宮が立ち上がろうとする。足にきたのか、膝が頽れそうになってゆらりとよろめいたが、支えようとする手下の手は邪魔そうに払い除けた。
  
 挑むように、ずいと二海人の方へ一歩前に踏み出す。
  
  
 「嵐柴、覚えてろよ 」
  
 「もう、忘れた 」
  
 笑みを絶やさず、そう言うと、四宮が悔しそうに口唇を噛んだ。
  

 「βのくせに…… 」
  
 「四宮が心配しなくても、真祝にはもう最高級のαが付いてるよ。お前に心配される必要がないくらいの立派なα様だ。アイツはもう手の届かない所にいる、お前も 」
  
  
 言おうとして、声が詰まった。覚悟は出来ていても、心の中では分かっていても、言葉に出すのはまた違う。半身が削られるのを認めることに、心臓から血が噴き出すみたいに苦しい。 
  
 それでも何でもないことの様に、二海人は言葉を続けた。
  
 「……俺も、な 」


 そう、βだって、αだって同じだ。
 愛する姫の王子になれなければ、結局は同じこと。
  
 「残念だったな。初恋ってのは、実らないもんなんだってよ 」

 「だっ、誰がっ!!」

 かぁっと顔を赤く染めた四宮に、おや、案外可愛い所もあるんだなと思う。


 「 顔、殴って悪かったな 」

 「……っ?! 」

 二海人は四宮に軽く手を上げてから、踵を返す。


  「……くそっ!このボンクラがっ! 馬鹿にすんじゃねぇっ! 柚井じゃ、ねぇんだよっ!!」

 背後で四宮が何かを言っている気がしたが、そんなことはもうどうでもよくなっていた。
  

 「つまんねぇな、全くもってつまんねぇ 」


 そう呟くと、ニ海人は足元に転がる小石を蹴った。


  




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