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しおりを挟む他の誰かと会うために行けないからと、真祝さんの様子を代わりに見に行かせるために、自分に鍵を渡した。
何が『殺す』だ。自分が助けを求められたくせに、人に押し付けるようなことをして、保護者を気取るな。
「いいですよ 」
央翔はそう言うと、注文表を手に取り立ち上がった。
「話はこれで終わりですね。貴方もこれから何処かへ行かれるみたいですし、僕も直ぐに真祝さんの所へ向かいたいですからね 」
「何処か? 」
知らない振りをする男を無視して、央翔は言った。
「すみません。 現金は持ち歩かない主義なので、ここまでの精算は済まして行きます 」
立ち去ろうとする背中に、「おい、お前、場所分かってんのか? 」と気の抜けた声が追ってくる。
知らない訳ないじゃないかと心の中で吐き捨てる央翔のポケットに紙切れを突っ込んで、「ご馳走さま 」と、初めとイメージの大分違う、すっとぼけた男はそう言った。
◆◆◆◆◆◆
「……行ったか 」
後ろ姿を見送って、二海人はそう呟いた。
何を勘違いしてくれたか知れないが、それはそれでこちらとしては都合がいい。
「そんなの居る訳ねぇよ 」
考えたら、やけに可笑しくなって、クックッと笑いを堪える。
料理を運んでいる店員が、訝しげにこちらを見たのが分かった。すると、余計に可笑しくなって、笑いが堪えられなくなる。
「は、はは…… 」
《運命の番》だって? 全く、羨ましい限りだ。
周りも気にせず、一頻り笑うと、自分もいつまでもここにいる必要はないと気付いた。あのお坊ちゃんがはした金を奢ってくれたそうだから、このまま帰ってしまおう。
上着を片手で掴み、肩に掛けると、もう片方の手で鞄を持つ。
「ごちそうさま 」
そう言って店を出ると、「ありがとうございました! 」と後ろ手で閉めた扉の中から聞こえた。
笑い過ぎて、濡れてしまった目の縁を指で拭う。
好きな店だったが、もう二度と来ることはないだろう、残念だ。
ふと見上げると、大きな紅い月が昇っていた。その禍々しい色に二海人は呟く。
人を惑わせる色だな……。
血の滴るようなブラッドムーン。とうとう来たこの夜に、ぴったりの色だ。
迷ってたまるか。絶対に後悔などしない。
振り切るように止めた足を進めると、向かいから歩いてきた男とすれ違い様、肩が当たった。
「ってーなっ!! どこ見てやがるっ! 」
ぶつかってきた男の言葉に、謝る気持ちが削がれる。眇めた目で、自分より身長の低い男の顔を見下すように見れば、どこかで見た顔だと気付いた。
相手もこっちが分かったようで、一瞬だけ瞳を見開いた後、口元に嫌な笑みを浮かべる。
曖昧な記憶は確信へと変わった。
「あぁ、お前…… 」
人間という者は、そう簡単に変わるものではないらしい。だらしない姿勢と、いからせた肩。
顔はそこそこ整っているが、滲み出る性格は隠せない。
「おい、ミヤ。 コイツ、知り合いか? 」
訝しげに聞いてくる四宮の後ろに居る2人の男は、友達というよりも手下に見えた。
「あぁ、中学まで同じだったヤツ。なぁ…… 」
語尾を籠らせた声に、何か言おうと企んでいるのが分かった。どうせ、ろくでもないことを言われるのは分かっている。
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