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暑い……、暑くて身体が溶けてしまいそうだ。
顎を伝い、滴る汗を手で拭う。
窓の外を見やると、夕方、未だ暑い真夏の日差しの中、部活だろう、校庭でサッカーをする生徒達の姿が見える。その脇では陸上部がタイムを計っていて……。
今では懐かしい学校ならではの喧騒に、あぁ……と思う。
……そうか、これは夢? 高校生の頃の夢か。
真祝は誰も居ない教室の自分の席に座っている。教室の雰囲気からして、2年生らしい。
俺はここで何をしてるんだっけ?
考えて、思い出す。
そうだ、生徒会に出ている二海人のことを待ってるんだ。
二海人はこの間の生徒会選挙で、生徒会長に選ばれた。ダントツだった。
この学校でβが生徒会長に選ばれるのは初めてのことらしい。
でも、あの演説で二海人が選ばれないなんて嘘だ。
壇上から響く、張りのある通る声。 凛々しい立ち姿。
その時のことを思い出して、真祝はクスッと笑う。
それにしても、自分が選ばれると思っていたらしいαの生徒の苦虫を潰した様な顔ったら。
性別検査でβだと分かっても、二海人は何も変わらない。
昔から、学校にいる誰よりも成績が良いし、スポーツだって負けない。
高校に入っても同じだ。 αクラスではなく、一般クラスの生徒が首席だなんて、前代未聞のことだった。
けれど、凄いことをしているのに、本人は特別なことをしているつもりはない。
二海人はどこまでも、二海人だ。
真祝はそんな二海人が格好良くて、誇らしくて、堪らなかった。 好きで好きで、堪らなかった。
真祝は、コツンと机の上に頭を乗せる。
「きもちい…… 」
ひんやりとした木の感触に、思わず声が出た。
それにしても暑い。 暑い。 ……熱い。
その時、忘れていた何かが、ザワリと胸をざらつかせた。
忘れていた……、『忘れたい 』、何か。
この後、何があった?
ところが、記憶を手繰り寄せようとした次の瞬間、夢の中の自分が放った言葉にギョッとする。
「風邪ひいたのかな? 熱っぽいや 」
いや、違うだろう? これはどう見たって……。
自分に突っ込みながら、気付く。 これは『あの日 』だ。
背中を流れる、冷たいモノ。
ヤバい、逃げろ。早く。 ここじゃない何処かへ、早く隠れろ。
けれど、夢の中の自分はあの時と同じ、くったりと机に突っ伏している。
大きな雲が流れて、教室に影が差す。
今日は無かった、7時間目終了の鐘の音が聞こえる。
この後だ。 真祝は、隠れることは既に遅いことに気付いた。 そうだ、この鐘の音が鳴り終わる前に……。
ガラッと、教室の扉が開く音がして真祝は顔を上げた。
「二海人? 遅…… 」
遅いよと言おうとして、口をつぐんだ。 そこに居たのは、二海人では無かったからだ。
「何だ、先生か 」
パタンと、また机に突っ伏す。
「二海人と帰る約束してんだけど、生徒会が長引いてるみたいで遅いんだよね 」
そんなこといいから、早く逃げろよ!
しかし、夢の中の自分は、苛立つ程に身の危険を感じていない。
「早く帰れって言いたいの分かるけど、もう少し待たせてよ。何か、体しんどくてさ……、え? 」
言い終わる前に、近付いて来た教師に腕を掴まれた。顔を上げて、いつもとは違う教師の雰囲気に戸惑う。
「な……に? どうしたの、先生……? 」
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