34 / 152
4.
8-4
しおりを挟む◆◆◆◆◆◆
今の二人のやりとりで、この男が真祝の言う《好きな人 》だということは、ほぼ確実だった。
もう少しで、自分の腕の中に収まりそうだった綺麗な小鳥が、この男のせいで逃げ出してしまったことに、央翔は多少なりとも腹を立てていたし、傷付いてもいた。
さっきまで真祝を抱き締めていた手の平をじっと見つめて、鼻先を擽る甘い匂いを思い出す。
「僕は…… 」
央翔は、ぎゅっと自分の両手を握り締める。
「真祝さんの《運命の番 》です 」
そう、《運命の番 》である相手以上に、大切な人がいて良い訳ない。
しかし、挑むように言ったのに、嵐柴 二海人は、驚いた様子を少しも見せなかったのだ。
「違う!! 」
央翔の言葉に反応したのは、二海人ではなく、真祝だった。
「何で……っ、二海人に何でそんなこと言うんだよ!!」
飛び付くように、掴まれる胸ぐら。
「違うだろっ! そんなのお前が勝手に言ってるだけで、俺達はそんなんじゃないだろっ! 」
見上げる必死な瞳に、笑いたくなる。
発情期でもないのに、こんなにいい匂いをぷんぷんさせて俺だけを誘ってるくせに、どの口が言ってんだろう。
「言えよ! 違うって! 」
「……嫌です 」
「……?! 久我っ! 」
胸元の真祝の両手に、自分の手を上から包むように重ねる。
「あなただって本当は分かってるでしょう? 」
目を見開いた真祝に満足して、央翔は包んだ愛しい人の両手を持ち上げて口付けた。
やっぱり、自覚している。 認めたくないだけだ。
「は、なせ……よっ 」
「嫌だ 」
央翔はもがく真祝の向こう、その理由となる男に視線を向けた。
「久我……、君? 」
すると、二海人が待っていたのか、質問を投げ掛けてくる。
「はい 」
「君はα、だったよね? 」
けれど、その質問は央翔を苛つかせた。
「当たり前でしょう 」
さっき、《運命の番 》と言ったばかりだ。
だが、それを聞いた二海人は、央翔が考えていた行動とは反対に、浮かべる微笑みを深くした。
ゆっくりとこちらへ近付くと、暴れる真祝の頭をそっと撫でる。
「二海人っ、俺、俺は……っ 」
「良かったな、まほ 」
「え…… 」
「これで、俺もやっとお役御免だ 」
ピタリと動きを止めた真祝の顔色が、可哀想なくらいに青冷めていく。
「それって、どういう…… 」
二海人はそれには答えず、央翔に向き直った。
「まほのことが好きですか? 」
好き? そんなの愚問だ。
「愛しています 」
それ以上の言葉で、央翔は答えた。
しかし、「そう…… 」と頷く二海人に、どうにも苛立ちが収まらない。
どういうことだ? 自分だって、想っているんじゃないのか?
そうでなければ、さっき、自分に抱き締められている真祝さんに気付いた時、真祝の名前を呼ぶ前、あんなに焼け付くような深く鋭い眼光をこちらに向ける筈がない。
「私は……、俺は、小さな頃からまほのことだけを考えて、まほだけを大事にしてきました。 君がまほのことを《運命の番 》と言うからには、一生、まほだけを大切にしてくれますね? 」
「それは…… 」
『勿論 』と言い掛けた央翔の肩を、二海人がぐいっと掴んで引き寄せる。
「……出来なければ、殺すよ?」
耳元を掠める吐息と、ゾッとするような低い声。
央翔は反射的に囁かれた耳を押さえると、慌てて自分の体を引き戻した。
離れる瞬間に見えたのは、先程と同じ目の光。
「君がどこの誰であっても関係ない。まほを泣かせるようなことがあれば、地の果てまでも追い掛けていくからね。……久我君 」
けれど、次の瞬間にはすっかりと、先程の表情など尾首にも出さずににっこりと笑う。
「まほを……、真祝を宜しくお願いします 」
頭を下げた男に央翔は、自分の常識の範囲の外、何か得体の知れない、底知れぬものを感じていた。
37
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金の野獣と薔薇の番
むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。
彼は事故により7歳より以前の記憶がない。
高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。
オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。
ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。
彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。
その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。
来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。
皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……?
4/20 本編開始。
『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。
(『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。)
※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。
【至高のオメガとガラスの靴】
↓
【金の野獣と薔薇の番】←今ココ
↓
【魔法使いと眠れるオメガ】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
なぜか大好きな親友に告白されました
結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。
ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい
市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。
魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。
そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。
不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。
旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。
第3話から急展開していきます。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる