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しおりを挟むお願いだからと、懇願する声が鼓膜を震わせる。
惹き付けられる……。自分でも分からない、抗えない力が働いているようだ。
駄目だと、心は警鐘を鳴らすのに。
ふわりとした心地の良い匂いに包まれて、これが《運命の番 》というものなのかと、ぼんやりと考える。
けれども、重い両腕を持ち上げて、自分を抱き締める男の背中にまわそうとした時だった。
「真祝……? 」
名前を呼ばれて身体が強張る。
流されてしまいそうな真祝を現実に引き戻したのは、背後から聞こえた声だった。
二海人ーーー?!
聞き間違う筈のない、恋して止まない愛しい男の声に、蒸気した身体が一気に冷たくなるのを感じる。
どうしよう、こんな所を見られて勘違いされたら!
「二海人……っ、あのっ、これはっ! 」
けれど央翔を突き飛ばすようにして離れた真祝が振り向くと、目の合った二海人は「どうした? 」と穏やかないつもの優しい顔で微笑っていた。
言おうとした言い訳が、喉の奥でひゅっと音を立てて詰まる。
俺のことなんて、本当に何んとも思っていないってこと?
ずっと一緒にはいられないとは言われた。それは、真祝とは結婚は出来ないということだ。
二海人の一生の《唯一 》に、真祝はなれない。別の誰かが《唯一 》になる。
それでも、《唯一》にはなれなくても、発情期の度になぐさめてくれる指先に、少しは想ってくれている気持ちがあると期待していた。
ふらりと二海人に近付いて、スーツの袖口を掴む。
『真祝さん……? 』と、誰かの声が後ろから追い掛けて来たけれど、気にしている余裕はなかった。
「あのさ、俺、アイツとは何でもないよ? 」
見下ろす二海人は表情を変えない。だけど、微笑むだけで何も言ってはくれない。
あんなにいつも、好きだ好きだと言っているのに、こんな往来で他の男と抱き合っているなんて、軽蔑されてしまったんだろうか。気持ちを疑われてしまったんだろうか。
幾ら自分のことを好きではなくても、友情だけは失いたくはない。
それが、真祝がすがる最後の砦だから。
「二海人、分かってる、だろ? 二海人、なぁ…… 」
俺が好きなのは、二海人だけだ……!。
掴んでいる袖口をブンブンと揺らしながら訴えると、二海人が小さく吐息した。
そうして、ビクッと身体を震わせた真祝の頭をくしゃくしゃと掻き回す。
「分かってるよ 」
「ホント、に? 」
「……本当だ 」
苦笑した二海人の瞳に、仄かに影が差すのを見付けて胸が苦しくなる。
「信じてないんだろ、何か怒ってるし 」
「怒ってないよ、俺が何を怒るっていうんだよ 」
そのまま、真祝の前髪を掻き上げて、コツンとおでこを合わせてくる。
「ふ、二海人? 」
「だから、そんなに恐がるな 」
そう言うと、ドキドキする真祝のおでこに、今度はゴツンと強くぶつけてきた。
「い……ってぇっ!! 」
額を押さえて、思わずしゃがみこんでしまった真祝を置いて、その横をついっと二海人が一歩前に踏み出す。
そして、真祝の後ろに立っていた央翔に向き合った。
「こんばんは。初めまして、ですね? 」
「……はい 」
二海人の完璧なアルカイックスマイルに、央翔は息を飲んだ。
悪いことをしたつもりはない。 これっぽっちも思っていないのに、何故か後ろめたい気持ちにさせられる。
「私は、コレの…… 」 真祝にチラリと視線を落とすと、二海人は少し悩む素振りを見せてから話を続けた。
「……昔からの友人で、《嵐柴 二海人》と言います。 失礼ですが、あなたは? 」
「僕は…… 」
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