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 「お口に合いましたか? 」

 「うん、旨かった 」


 店を出て、央翔は気になっていたのか、直ぐに真祝に聞いてきた。真祝も素直に返事を返す。


 フランス料理だの、中華だの言っていたが、央翔が真祝を連れて行ってくれたのは、小ぢんまりとして落ち着いた店構えの天麩羅専門の店だった。
 清潔そうな白木のカウンターと、趣のある調度品が自然に置かれていてとても雰囲気が良い。


 車海老、鱚、蛤、蟹、海老かき揚げ……。

 カウンター席の目の前で、シェフが次々に揚げてくれる黄金色の天婦羅は絶品だった。 タラの芽、筍、椎茸、そら豆などの季節野菜もとても美味しかったし、大きな鮑が揚げられ、貝殻に乗せられて出てきた時には驚いて声が出た。

 見た目も華やかな天婦羅に、真祝は作る人の矜持とこだわりを感じて好ましかった。


 「そうですか! 良かった! 」

 「それよりも、お前、先に勘定払ってただろう? 自分の分は自分で払うから、幾らだったか教えろよ 」


 けれど、それには誤魔化すように曖昧に笑う。


 「そんなこと、良いじゃないですか 」

 「何、言ってんだよ。 俺は、お前に奢られる理由がない」


 当然の如く言えば、央翔も当たり前のように返してきた。


 「デートだって言ったでしょう? 真祝さんと楽しい時間を過ごせただけで嬉しいのに、お金を出させようなんて思ってません 」

 「……デートじゃないって言ったろ 」

 「真祝さんにとってそうではなくても、僕にとってはデートなんです 」


 有無を言わせない口調に、キラキラとした微笑みが拍車を掛けて何も言えなくなる。
 真祝にしても、こんなことでムキになる必要もないと思ったので素直に財布をしまった。


 「じゃ、それでもいいや。 サンキュ、ごちそうさま 」

 次の時に、今度は自分が払えばいいだろう。……ん、次の時?

 そう思った瞬間だった。


 「真祝さんっ! 」

 いきなり引き寄せられて、肩を抱かれた。


 「……っ?! 」

 何事かと思ったら、直後、2人の横スレスレをスピードを上げた車が通り過ぎる。
 同時に、ばしゃっと、昼間降った雨で出来た水溜まりを跳ねさせる音。


 「冷た…… 」

 ……く、ない?

 濡れると思って、ぎゅっと目を瞑ったけれど、一向に水が掛かる気配がない。

 不思議に感じて、そっと片目づつ目を開ければ、真祝は道路側を背にした央翔の腕の中に居て、守られていた。


 「……大丈夫? 」

 そう言う央翔の高そうなスーツは、びしょ濡れで台無しだ。
 真祝はぶんぶんと顔を振った。


 「俺は平気だよ、お前の方こそ……っ 」

 良かった……、そう呟いた央翔がにっこり微笑う。


 「僕は大丈夫です。真祝さんに何も無ければいいんです 」

 「な、何言ってんだよ! 」

 真祝は急いで、斜め掛けのバックバッグからタオルを取り出した。


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