月夜の小鳥は哀切な嘘をつく【本編完結。アナザーストーリー連載中★】

山葵トロ

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 ◆◆◆◆◆◆




 「あー、もうっ! お前、あっち行けよ! 」


 並んだ椅子に座って長机に突っ伏すと、その直ぐ横に、央翔が後ろ手で長机に手を付く。
 昼休みに来たのが分かって誰もいない会議室に隠れたのに、あっという間にバレてしまった。


「嫌ですよ? 僕、真祝さんに会いにきたのに 」


 目の前に置いてあるのは、ピンク色のガーベラの花束。
 コイツは自分に会いに来る時は、必ず花を買って来る。


 花言葉は、えっとなんだっけ……。


 「《熱愛 》だよ。真祝さん 」


 ふっと顔を上げると、目が合った央翔が、嫌味に感じる程嬉しそうな笑顔で笑った。後ろめたさに顔を背ければ、少しの間の後、聞こえよがしにはぁっとため息を落とされる。


 「馬鹿だよねぇ、真祝さんは 」

 「ば、馬鹿?! 何が! 」


 聞き流せない言葉に反応したら、央翔がニヤリと笑った。


 「遠くからでも僕が来たことが分かるのに、自分の居場所が僕に分からないって思ってるところ 」


 そう言うと、真祝の正面にしゃがんで、花束越しに魅惑的にきらめく瞳で見詰めてきた。同時に央翔の甘い匂いも強くなる。


 そう、この匂いだ。 この匂いが真祝を惑わせる。αがフェロモンを出すなんて初めて知った。甘くて、甘くて、心地の良い匂いに、気を抜けばうっとりとしてしまいそうになる。



 『男のくせに香水を付け過ぎなんじゃないか 』前にそう言ったら、央翔は目を円くして驚いていた。

 『フレグランスの類いは一切使っていません 』と言われて、今度はこっちが驚いた。

 柔軟剤や整髪料などの仄かなものなんかではない。もっとハッキリとした、自己主張のある匂い。まるで、自分はここにいると言っているような……。

 知りたくない答えに気付いて、真祝はゾクッとした。 その事実に目を反らそうとしたのに、央翔が答えを突き付けてくる。


 『僕からするという匂いは、真祝さんにしか感じないものだと思います 』


 央翔の存在を感じると、発情期でもないのにカラダが熱くなってしまう自分。それも、感じているのは真祝と央翔だけだと、央翔は言う。


 誘っているのは、央翔のことだけ。

 特別なフェロモンでお互いを呼んで、引き合っているのだと。


 言われてみれば、初めて央翔に会った時、支社長達は何も感じていないようだった。
 妙に納得させられかけたが、だからといって全てを認める訳にはいかない。


 
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