27 / 152
4.
7-1
しおりを挟む◆◆◆◆◆◆
「あー、もうっ! お前、あっち行けよ! 」
並んだ椅子に座って長机に突っ伏すと、その直ぐ横に、央翔が後ろ手で長机に手を付く。
昼休みに来たのが分かって誰もいない会議室に隠れたのに、あっという間にバレてしまった。
「嫌ですよ? 僕、真祝さんに会いにきたのに 」
目の前に置いてあるのは、ピンク色のガーベラの花束。
コイツは自分に会いに来る時は、必ず花を買って来る。
花言葉は、えっとなんだっけ……。
「《熱愛 》だよ。真祝さん 」
ふっと顔を上げると、目が合った央翔が、嫌味に感じる程嬉しそうな笑顔で笑った。後ろめたさに顔を背ければ、少しの間の後、聞こえよがしにはぁっとため息を落とされる。
「馬鹿だよねぇ、真祝さんは 」
「ば、馬鹿?! 何が! 」
聞き流せない言葉に反応したら、央翔がニヤリと笑った。
「遠くからでも僕が来たことが分かるのに、自分の居場所が僕に分からないって思ってるところ 」
そう言うと、真祝の正面にしゃがんで、花束越しに魅惑的にきらめく瞳で見詰めてきた。同時に央翔の甘い匂いも強くなる。
そう、この匂いだ。 この匂いが真祝を惑わせる。αがフェロモンを出すなんて初めて知った。甘くて、甘くて、心地の良い匂いに、気を抜けばうっとりとしてしまいそうになる。
『男のくせに香水を付け過ぎなんじゃないか 』前にそう言ったら、央翔は目を円くして驚いていた。
『フレグランスの類いは一切使っていません 』と言われて、今度はこっちが驚いた。
柔軟剤や整髪料などの仄かなものなんかではない。もっとハッキリとした、自己主張のある匂い。まるで、自分はここにいると言っているような……。
知りたくない答えに気付いて、真祝はゾクッとした。 その事実に目を反らそうとしたのに、央翔が答えを突き付けてくる。
『僕からするという匂いは、真祝さんにしか感じないものだと思います 』
央翔の存在を感じると、発情期でもないのにカラダが熱くなってしまう自分。それも、感じているのは真祝と央翔だけだと、央翔は言う。
誘っているのは、央翔のことだけ。
特別なフェロモンでお互いを呼んで、引き合っているのだと。
言われてみれば、初めて央翔に会った時、支社長達は何も感じていないようだった。
妙に納得させられかけたが、だからといって全てを認める訳にはいかない。
17
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

運命の人じゃないけど。
加地トモカズ
BL
αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。
しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。
※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる