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しおりを挟む「……っ?! は、なせ……っ! 」
慌てて振りほどこうと暴れれば、振り回した手が相手の顔に当たり、「痛てっ 」と相手がよろめく。 真祝はしめたと、その隙に逃げた。
9階、8階、7階……、タタタタと、階段を降りる音が2つ響いている。
しかし、その距離は段々に縮まり、とうとう3階まで来たとき、遂に踊り場の所で手を捕まれた。
「何しやがる! 離しやがれ! 」
暴れるのに、今度はビクともしない。
見ないようにしていたのに、乱れた、金色に近い淡い色の髪が、視界の中にサラリと入ってきた。
「さっきは油断してましたけど、今度はそうはいかないですよ? 」
そのまま壁際に追い詰められ、顔の横に両手を付かれる。強過ぎるαの香りに、目眩がしそうだ。
「だ、だから、お前なんか知らねぇって……?! 」
「凄くあまくて、いい匂い。 ラット、起こしそうだ 」
耳元に顔を寄せられ、くんと匂いを嗅がれて、身体がビクッと震えた。
「発情期……ではないよね? 」
「……っ! お前っ、人の話を聞け……よ…… 」
思わず顔を上げてしまえば、正面から見詰めるこの男と目が合ってしまった。
真祝を見下ろす、緑がかった薄茶色の瞳が揺れている。引き込まれそうだ。
「やっと、見てくれたね 」
「……や、めろ 」
ふいっと顔を背けると、「だめ 」と指先で顎を捕まれて正面を向かされた。
すっとして形の良い眉、瞳に影を落とす長い睫毛、真っ直ぐで高めな鼻梁。 誰が見ても整っていると思うであろうその顔立ちが思ったよりも近くにあってドキッとする。
「逃げないで 」
誤魔化すように黙って睨み返したら、男の薄い口唇の口角が上がった。
「……逃がさないよ 」
男のトーンを落とした低い声に息を飲む。
長い指先が、しなやかに真祝の頬に触れた。
「逢った時……、いや、逢う前から真祝さんも知ってた筈だよ。」
綺麗な顔が近付いてくる。 キスされると分かっていても、魅入られたように身体が動かない。
あと、数センチ。 諦め掛けて瞳を閉じる寸前に、吐息が重なる距離で男が囁いた。
「貴方は俺の《運命の番》だ 」
けれど、そう言われた途端、頭の中にずっと好きな男の顔が浮かぶ。
二海人……っ!!!
「ふざけんなっ! 」
まるで、おまじないの言葉のように体が動いた。
「誰がお前の《運命の番》だっ! 俺には好きな奴がいるんだよっ!! 」
真祝が男を突き飛ばして、丁度脇に蹴りを入れた時だった。支社長と何人かの男達がバタバタと階段を降りてくる。
「……っ! 」
脇を押さえながら倒れ込む男に、支社長達が青い顔をして駆け寄る。
「専務!! 大丈夫ですかっ? 」
「……っ! せんむぅー?! 」
驚いて素っ頓狂な声を出した真祝を、支社長がギロリと睨む。
「きっ、君ぃ! 柚井君だねっ? 何てことしてくれたんだっ! 」
「だっ、だって、コイツどう見ても俺より年下じゃないですか! 」
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