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しおりを挟むカタン……と、人の気配がして目が覚めた。 部屋の暗さから、すっかりと日が暮れてしまっているのを知る。
あぁ、夢を見ていたんだな、と思う。
懐かしい夢。今更どうして何年も前の夢を見たんだろう。 一番、幸せだったからだろうか。
あの頃は良かったなんて、まるで長い人生を経験してきた老人のようなことを思ってしまう自分が何だか笑える。
でも、本当にあの頃は良かった……。
「……悪い、起こしたな 」
火照る身体を起こすのが億劫で顔だけ向けると、二海人のしなやかで節高な指が、額に張り付いた髪を払ってくれる。
僅かに残る人いきれの匂いに混じった、大好きな男の香りに、何度も収めた筈の欲望が、あっという間にまた頭をもたげてきた。
二海人は友達として心配してくれているだけなのに、こんな風になってしまう自分が嫌になる。
そう、あの頃はまだ、こんな厄介な、発情期なんてものも知らなかった。
ただ、素直な気持ちだけで二海人のことを好きでいられた。
「……電車、混んでた? 」
「ん、まぁ、いつも通り 」
「仕事……、忙しいのにごめんね 」
早く仕事を終わらせてここに来てくれた二海人に謝ると、気にするなという様に、くしゃくしゃと頭を撫でてくれる。
二海人は、高校に進んだ後、この国で一番の最高学府に進み、世間一般でいう、所謂一流企業に就職した。
真祝は高校までは同じ学校に通えたが、結局は元々の実力不足もあり、大学は自分に見合ったところを受けて卒業はしたものの、性別とそれに伴う体質のせいで、今現在は契約社員の事務として働いている。
そんな真祝と違って、一線で働く二海人の仕事はとても忙しいのだろうと容易に想像はつく。
けれど二海人は、どんなに仕事が忙しくても、学生の時と変わらずに、真祝が苦しいときには必ず助けに来てくれた。
発情期の時も、いつもこうして様子を見にきてくれる。
「まほ、辛いか? 」
まるで、自分まで辛そうな表情に胸がきゅうっとなった。それと同時に気持ちがささくれ立つ。
真祝が、その辛さから開放して欲しいと望んでいるのは、二海人だけだと知っているくせに。
「……分かってんなら、抱いてよ 」
睨みながらそう言うと、冗談と取った二海人に額を叩かれた。
「いて……っ 」
「お前な、俺がβ(ベータ)だからいいようなものの、αだったらシャレにならないぞ 」
「……そんなんじゃ、ない 」
欲しくて、二海人のスラックスの前立てに手を伸ばそうとすると、触れる寸前で手を掴まれた。
「止めろよ 」
触らなくても伝わる熱に、真祝はゴクリと喉を鳴らす。いくら二海人がβだといったって、αのヒート程ではなくても、発情期のΩのフェロモンにはあてられていない筈はなかった。
本当に、どうしてこんなにαよりもαらしい男がβなんだろう。未だに、何かの間違いとしか思えない。けれど、検査は国の機関で行っていることで、検査の結果が誤っているということは100%有り得ないことだった。
制止する手を振り払い、既に大きくなっている二海人自身を握ると、二海人がグッと呻いて真祝の手を振り払う。
「だから、止めろって 」
「二海人だって勃ってんじゃん。 俺がいいって言ってるのに、何で我慢するの? 」
二海人が溜息を吐きながら、頭を振った。
いつもの自分だったら、幾ら発情期とはいえども、絶対にこんなことはしない。けれど、あんな昔の夢を見たからか、自分を制御出来ない。
だって、これじゃああんまりにも、自分が可哀想だ。 こんなに好きなのに、ずっとずっと好きなのに。
この時の真祝は、2人が友達でさえ居られなくなってしまうとか、そんなことを考える余裕も無かった。
固く閉じられた合わせ目を辿るように舐めると、二海人に両肩を掴まれるが、真祝は引き離されまいと必死でその首にすがり付く。
ずっと、ずっとしたかった二海人とのキス。もっと欲しい、欲しい、欲しいっ……! だけど二海人の心と同じように開かれない口唇に、これ以上どうすればよいのか分からない。
もどかしさに身を捩れば、大腿部に固いものが当たった。途端、ビクッと二海人の体が揺れたかと思うと、それがスイッチだったのか、いきなり腰を攫うように抱き寄せられる。
密着したお互いの欲望が重なるゴリッとした感触に、下腹部の深い場所が悦びで切なくなる。
トロリとした甘酸っぱい蜜が溜まっていく感覚に、小さく声が漏れた。
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