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 「お前、本気か? 」

 「本気だ 」

 「戦いを勝利に導く天藍石ラズライトの瞳を持つ英雄様でも、ままならないこともあるんだねぇ 」

 「……茶化すな 」


 仕事の話だろうか? ジークハルト様は何かを悩んでいるのだろうか? 私を好きになってくれたら、その悩みを私に少しでも分けて貰うことが出来るだろうか?

 そう思ったら、勇気が出た。思い切ってドアを叩き、「失礼します 」と言って中に入る。


 「ありがとう、フィーナ 」

 タイランのお礼に、「いえ 」と言って会釈をした。後めたさから、ジークハルトの顔は見れない。


 「どうぞ 」と言って、ジークハルトの前に惚れ薬入りのお茶を置くと、彼も「ありがとう 」とお礼を言ってくれた。
 タイランの前には普通のお茶を置く。


 「今日はフィーナの特別のお茶なんだよね。ジークのためかな? 」

 「ちっ、違いますっ! ロートレッド様の為なんかじゃありませんっ! 」

 言ってから、しまったと思った。ある意味、真実を突かれて焦ってしまった。タイランの社交辞令をここまで否定することはなかったのに。

 恐る恐るジークハルトを見ると、こちらを見て苦笑いしている。


 「じゃあ、頂こうかな 」

 カチャリと、剣を持つ節高の長い指がティーカップを持つ。


 「花の様な良い香りがする、これは……
 」

フィーナは、自分の喉がコクンと鳴る音を聞いた。


 飲んで、お願い。飲んで。

一見酷薄そうに見える薄い口唇を縁に付けて、ジークハルトがティーカップを傾けた。喉仏が動くのが見える。


 ーーー飲んだ!


 「えー? 花の匂いなんかしないよ? フィナフィナぁ、これいつものお茶と…… 」

タイランがそう言った時だった。タイランへの言い訳を考えようとしたフィーナの耳に、ガチャンと磁器が乱暴に置かれる音が聞こえた。

 振り向くと、ジークハルトが恐い表情かおをして、立っている。
 まさか、薬を盛った事がバレた? 冷たいものが背中を落ちていくのを感じた。
 

 「ロートレッ…… 」

 「フィーナ嬢 」

 ジークハルトが、ツカツカとフィーナの前まで来て跪く。
 翻ったマントが地面に落ちきる前に、ジークハルトは慄くフィーナの手を握って言った。


 「私と結婚して頂けませんか? 」




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