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しおりを挟む「ちょっと、橘さんっ……?! 」
聞こえてるのかいないのか、浩峨は美花を長い手足にくるんだまま、更に「くぅーっ。もう、どうしてくれよう 」と左右に揺さぶる。
くるし……。
こんなに抱き締められたら、身体だけでなく胸までも苦しくなってしまう。
ドキドキして、巻き付く長い腕にしがみつけば、髪に顔を埋められた。
「あの、私、変なこと言いました? 」
「ううん、美花ちゃんは変なことなんて言ってないよ。でも、そんなこと言われたの、初めてだったから 」
しかし、言っている意味が分からなくて聞いてみても、返ってくるのは要領を得ない答え。
「分かんないならいいんだ 」
首を傾げる美花に、浩峨がまた笑う。
「分かんない美花ちゃんが、大好きだよ 」
大好きと言われて、ぽん……と全身の体温が上がる。
「あっ、真っ赤…… 」
「……っ! 橘さん……っ 」
見ない振りしてくれればいいのに、からかうように指摘されて、恥ずかしさの余り美花が叫ぶと、その口唇に人差し指を当てられた。
「コラ、さっきから戻ってる 」
言われたことに気付いた美花は、キラキラとした瞳からふいっと視線を逸らす。
「今までずっと名字で呼んでいたんだもの。いきなりは無理よ 」
「そうなの?、残念 」
表面的には納得したような返事。
けれど、美花はそのキラキラした浩峨の瞳が、悪戯めいた光を放っていることにまでは気付いていなかった。
「じゃあ、どうしても聞きたいから、呼んで貰える状況に持っていくしかないね 」
身体に重みを感じて振り仰ぐと、舌舐めずりをする男に見下ろされている。
色を孕んだ空気に、美花は慌てた。
「え、だってさっき、あんなに…… 」
したのに……と言おうとしたら、ちゅっと口唇を啄まれる。
「ごめんね、《あんな》んじゃ全然足りない 」
手加減した分、もどかしくて堪んなかったと言って、にっこりと微笑まれれば美花は青ざめるしかない。
あれ程、身も世もなく泣かされたのに、手加減してたって……。
「え、えっと、名前で呼びます? 」
「何んで、疑問形? 」
ぷっ……と吹き出した浩峨が、「もう遅いです 」と耳朶を舐めた。
ねっとりと耳孔に入り込んでくる舌に、びくびくと身体が揺れる。
「受け止めてねって言ったでしょ? ……ここからだよ 」
オクターブ下げられた声音が、鼓膜に落ちて背筋がじんと痺れた。
もう仕方がない……。
美花は身体のちからを抜くと、浩峨の背中に手を回す。
どんなに抵抗したって、心の奥では自分がこの人に捕まりたいと望んでいるのだから。
くすっ……と落ちてきた声が悔しいけれど。
そして、愛されるあまい期待に、美花はそっと身を委ねた。
《fin》
*次のページから、その後の2人を少しだけ書いてます。
宜しかったら、もう少しだけお付き合いください(^^)。
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