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しおりを挟む逆に長男であろうと、力が無ければその地位を追われる。
自由である分、生き残る為の厳しさは半端ないのだと、この甘ったれた坊っちゃんには到底分かるまい。
まぁ、そのお陰で自分は、医者になりたいという夢をアッサリと叶えられたが……。
「惚れた腫れたで、結婚が出来るか! 釣り合いの取れない相手なら愛人にするしかないだろう! 」
ピクリと浩峨が眉を動かす。
そういうことか……。
『私、橘さんの愛人にだったら、直ぐにでもなったのに…… 』
どうしてあんなことを言うのかと思っていたが、昨夜の美花の言葉がパズルのピースのようにカチリと嵌まって、浩峨は小さく息を吐いた。
「君は美花ちゃんのことが欲しくて堪らないくせに、結婚出来ないからって愛人にするつもりだったんだ。 ……若いのに不健全だねぇ 」
「う、うるせぇ! それ以外にどんな方法があるっていうんだ!」
「……やらねーよ? 」
いきなり変わった声色に、市之宮がグッ……と息を飲んだ。
「今更後悔しても遅い。俺がいる限り、もう美花には指一本触れさせない 」
しかし、浩峨は直ぐに口元に笑みを戻す。
「残念だったね、俺よりも君の方がよっぽど側にいたのに。
それに、釣り合いって言うけれど、世が世なら釣り合わないのは俺と市之宮くんの方だよ。 華族の血筋である七瀬家のお姫様が、手の届く所に降りてきてくれたんだとは思えなかったの? 」
「はっ! 誰がそんなこと思う。綺麗ごと言ったって、名前だけの華族様じゃどうしようもないんだよ!
しかも、不感症のくせして、男なら誰彼構わず足を開きやがる。愛人としても妻としても、欠陥品もいいとこだ!
こんなのを娶るだなんて、アンタもいい面の皮だな……っ!! 」
「……君の言っていることが分からないな 」
「知らないフリするなよ。 アンタも美花のことを抱いてるなら分かるだろうが! 」
「いや、本気で分からない。 こんなに素直で可愛い子、初めてだから 」
小首を傾げて別の意味でそう言うと、浩峨は美花の頤を掬った。
見上げてくる潤んだ瞳。怯えた色を孕む虹彩に、こんな時なのに心を鷲掴みにされる。
全く、よく言うよ。欲しくて堪らないのは、自分だ。
俺も市之宮と同様、相当イカれてるーーー。
「まぁ、暴力でしかいうことを聞かせられない君には分かんないか 」
「あっ、あんなのは躾だっ! 」
「……そう言うなら、そこで指咥えて見てな 」
まだそんなことを言う市之宮の前で、浩峨はこれから何をされるか分かっていない美花の腰を攫った。
固定したままの指を持ち上げると、そっと顔を近付ける。
「たちば……? 」
黙って……。
声は出さないで、口唇と吐息だけで形を作る。
ゆっくりと口唇を重ねた瞬間、電気が走ったように小さく美花の身体が跳ねた。
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