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しおりを挟むそう、そうだったの……。
探偵なんていうのは、真っ赤な嘘。怪我をしたかと心配した消毒液の匂いも、医師だったから。
「……仕事だったって、訳ね? 」 何もかも、全部。
そうでなきゃ、浩峨さんみたいな人が、私みたいな人間を相手にする筈がない。全て真に受けていた自分が馬鹿みたいで、笑いたくなる。
「美花、取り敢えずここに来るか? 浩輔に頼めば、お前ぐらい暫くは置いてくれると思う。 俺、直ぐに物件探すから 」
その為に金貯めてたんだからな……と言う壱葉に、美花は淡く微笑んで首を振った。
「平気よ。お父様のこともあるし、無理しないで。 でもいつかまた、壱葉兄さんと暮らせたらいいわね」
今度は本当の意味での家族として……。
美花は部屋の掛け時計に目を遣ると、ソファーから立ち上がる。
タイムリミットだーーー。
「美花? 」
「ごめんなさい、壱葉兄さん。 私、もう行かなきゃ 」
「何だよ、早いじゃないか。 もう少しゆっくりしていけよ、まだ全然…… 」
後を追って慌てて立ち上がった壱葉を、「時間がないの 」と美花は制止する。
「何の時間? 」
けれど、聞かれて、上手い説明が見当たらなくて、仕方無く美花が曖昧に笑うと、壱葉に腕を取られて引き止められる。
「……美花。もしかしてお前、何か隠してることがあるんじゃないのか? 」
「えー、無いわよ 」
ごまかすように、下の荷物を拾う。
「嘘吐くなよ。 お前、絶対おかしいよ 」
「壱葉兄さん、考え過ぎよ 」
美花は壱葉の手をそっと解くと、立ち上がった壱葉の正面に向かって立った。
だけど、瞳は見ることが出来ない。
「ありがとう、今日は会えて良かった 」
最後に……。
「ねぇ、お父様に言っておいてね。 大学の学費、払い続けてくれているんでしょう? 私の為に余計なお金は使わなくていいって…… 」
「話、聞けよ! それに、そんなこと言うな……っ。 親父も余計だなんて、これっぽっちも思ってねぇよ! 」
いきなり声を荒げた壱葉に、美花は目を瞠った。
壱葉兄さんは、今の私に普通じゃない何かを感じ取ってる。上手く言わないといけない。
「うん、でもね。私、学校に戻る気はないの。 そうしたら、勿体無いでしょう? だけど、お父様の気持ちも壱葉兄さんの気持ちもとても嬉しかった。だから、お願い …… 」
「そんなの、お前が自分で言えって! いつだって、会えるだろっ! 」
感情的に怒鳴る兄に、美花は切ないような不思議な気持ちになる。
皮肉だ、あんなにこちらを向いて欲しかった人達が、もう帰れない状況になっている今、自分の方を見てくれている。
そして、私は伸ばしてくれている手を掴むことが出来ない。
それは、自分に気持ちが無いとはっきり分かった今でも、どうしようもなく、あの人のことが好きだから。
探偵でも、医師でも同じこと。いや、医師である方が社会的地位がある分、失うものも大きい。
私が市之宮の元へ行かなければ、あの人は……。
「分かった。じゃあ、お父様の病院にも近いうちに行くわ」
仕方無く、美花は壱葉を納得させる為、守れる筈のない約束をする。
「……近いうちじゃねぇよ。明日にでも、明後日にでも来い。親父も美花に会いたがってる 」
「分かったわ。 じゃあ、明日 」
偽りの言葉を吐いて、美花は俯きながら何度も頷くと玄関に向かった。
「本当に時間無くなっちゃう。 じゃあね、壱葉兄さん! 」
「美花……っ!!」
「なぁに? 」
振り向くと兄は、自分が呼び止めたくせに何を言ったらいいのか分からないような顔をしていた。
「絶対に来いよ! 俺も待ってるから…… 」
美花は、ぐっ……と泣きそうになるのを堪える。
そして、返事はせずに、ただにっこりと笑った。
……だって、その明日は絶対に来ない。
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