溺れるカラダに愛を刻んで【完結】

山葵トロ

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 「橘さん、私のことなんて遠慮なく追い出していいのよ? 本当は、私みたいな犯罪者と一緒に暮らしたくなんかないでしょ? 何されるか分かったものじゃないもの 」

 普通の人なら、そう思う筈だもの……。


 美花は、喉の奥にある塊をぐっと飲み干すと、わざと明るくそう言う。
 すると、ずっと黙って美花の話を聞いていた浩峨が口を開いた。


 「……だから、美花ちゃん。その自虐的な言い方、やめなさいって 」

 「だって、本当のことだも……っ?! 」


 軽い物言いに驚いて顔を上げた途端、おでこをパチンと弾かれる。
 美花は、両手で自分のおでこを押さえると浩峨を睨んだ。


 「痛い! 何するの?! 」

 「仮に本当だとしても、僕はそういうのは好きじゃない。 君は先ず、自分のことばかりじゃなく、どうして君が罪に問われなかったのか周りの人の気持ちも考えなさい 」

 最後に「ガキ 」と付け加えて、よいしょ……と浩峨が立ち上がる。


 「ガ、ガキっ……て言ったわね。 聞こえたわよっ! 」

 「ハイハイ、聞こえるように言いましたよ……っと 」


 浩峨は美花の膝裏に腕を差し込むと、フワリと持ち上げた。


 「相変わらず、軽いなぁ 」

 「ちょっと、なっ…… 」

 「痛いんでしょ? 大人しくしてなさいね 」

 悪戯めいた、あまく煌めく瞳を間近に見てドキリとする。
 もしかして、足が痛くないことなんてとっくに……。


 「まったく、そんなことで悩んでたのか? 僕はてっきり…… 」

 言いかけて、浩峨は口を噤む。


 「てっきり……? 」

 「いや、いい。 それに、忘れたの? 出ていくって言う美花ちゃんを、最初にカラダと金で引き止めたのは僕だよ? 」

 「カ……っ 」


 事実だけれど、そんな明け透けな言い方っ。

 ポン……と顔を赤くした美花を見て、わざとらしく浩峨が瞳を大きくした。

 「アレ? セックスって単語、平気でいえちゃうコがこれぐらいで恥ずかしくなっちゃいます? 」

 「人……っに、言われるのと、自分で言うのは違うのよ……っ 」


 堪え切れずに浩峨は声を立てて笑うと、顔の前で手を交差して隠した美花を軽々と抱き上げたまま、長いリーチでリビングへと向かう。

 「美花さん、可愛いお顔隠し切れてませんけど? 」

 「うっ、うるさいわよっ! 」

 「まぁ、いいや。 何にせよ、美花ちゃんが心に溜めているものを、僕に話してくれたのはとても嬉しかったし。折角のいい機会だから、これからのことも色々と話し合おう? 」


 これからのこと……。

 「これ、から……? 」

 「うん、僕も美花ちゃんに話したいことがあるんだ 」


 そんなものは、どこにも無いのに。

 そう思いながら、美花は顔を隠したままコクリ……と頷いた。


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