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しおりを挟むつよい刺激に、重い痺れが身体中に鈍く響く。
みっちりと隙間なく埋めて、ずるずると内部を容赦なく擦りあげてくるものに、美花の喉奥がひゅっ……と鳴った。
「待っ……、もっと、ゆっく……り…… 」
揺す振られながら、馴染むまで待って欲しいと、じんじんと震える指先でそっと接合部に触れる。
一瞬、男の動きが止まった。 そして、生理的な涙で濡れた美花の瞳を見て、先程とは違う種類のため息を吐く。
「……成る程、《離れられなくなる》くらいの《いい身体》……ね 」
それは、前の時に自分が言った言葉。皮肉交じりの言い方に、鳩尾がひんやりと冷える。
見るからに色を失くしていく美花の白い小さな顔を見て、ハッ……と浩峨が瞠目した。
「私の身体、気持ちいい……? 」
微かに口唇に乗せる微笑み。
「美花ちゃ…… 」
「いつでも、抱いていいの。 だから…… 」
ーーーここに、ずっと居てもいいでしょう……?
けれど、言いかけた言葉はグッ……と飲み込む。
それでは、今までと同じ意味に取られてしまうと思ったから。
美花はほっそりとした手を伸ばすと、浩峨の首に巻き付けた。
「……ぎゅって、抱き締めてよ 」
「……。 」
「そうしたら、その後いくらでも橘さんのすきにしてくれていいわ 」
いつも、アンタだの、貴方だのと呼んでおいて、初めて名前を呼んだ気がする。
震える声も身体も、本当は拒絶されるのが怖いからだと気付かれなければいい。
「ごめん 」
少しの間の後、囁かれた声に美花は怯えた。しかし、続く抱擁に息が止まりそうになる。
「らしく、なかった…… 」
『らしくなかった』って、どういう……。
聞きたかったのに、広く大きな胸が温かくて何も言えなくなってしまう。
この人の腕の中は、どうしてこんなに、蕩けそうになってしまうくらいあまいのだろう。
ここにいれば大丈夫だと……、誰からも傷付けられることはないと錯覚してしまいそうになるのはなぜなのだろう。
父親に抱き締められた記憶などない。
娘を道具としてしか見ていなかった母など尚更だった。
じんわりと、濡れた睫毛が水分で重くなる。
甘え方など知らないから、甘えさせてもらったことなどなかったから、淋しかったことさえ分からなかった。
「……が……と 」
聞こえたのか、聞こえていないのか、きゅうっと美花を包む腕の力が強くなる。
顔を埋めた広い胸から聞こえてくる鼓動と、身体の中の浩峨自身が、どくんどくんと同じ速さで脈を刻んでいるのに気付く。
突如美花は実感した。外側と内側から彼を感じて、つながっているのだと。
この人と一つになっている……。
「あ…… 」
「ん、 どうした? 」
後頭部を撫でられて、ゾクリと背筋をあまいものが走った。
高鳴る胸を制御出来ない。
「……も、いい。橘さん 」
「もう、いいの? 」
頷きながら胸を押し返そうとすると、その手を取られて全ての指を絡められる。
「良かった。 美花ちゃんとこうやってくっついてるだけでも幸せな気持ちにはなるけど、もうそろそろ限界だった 」
人の気も知らないでペロリとそんなことを言うと、浩峨はシーツに美花を縫い留めて、ゆさっ……と腰を揺らした。
「ん……っ 」
「ね、僕に聞いてばかりだけど、美花ちゃんはちゃんと気持ちいい? 」
見下ろしながら、ニッコリと微笑う。
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